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忘れ物をなくすために必要なのは「ワーキングメモリ」

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子どもの「忘れ物」は、多くの親にとって気になることの一つといえるでしょう。必要な持ち物を忘れず持っていくということは、目的に合わせて情報を記憶しながら考える脳の働き=ワーキングメモリが関連しているのだそう。
「なぜ忘れ物をしてしまうのか」「忘れ物が多い場合の対策」などについて、広島大学大学院人間社会科学研究科教授・一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会の代表理事である湯澤正通先生に伺いました。
そもそも「ワーキングメモリ」とは?
湯澤先生によれば、人間の活動や行動は「ワーキングメモリ」という短期的な記憶機能によって支えられているのだそう。
「ワーキングメモリは、短い時間に心の中で情報を保持し、同時に処理する『脳の黒板』といえます。注意を向けていないと、『脳の黒板』に書かれた情報は数秒で消えてしまいます」(湯澤先生)
子どもの忘れ物とワーキングメモリの関係性
例えば、小学校の帰りの会で先生が「明日は公園に行って絵を描きます。暑くなりそうなので、水筒を忘れないでください。スケッチブックと絵の具を持ってきてください」と伝えたとします。
そのとき、ワーキングメモリが働く「脳の黒板」では、「明日、公園で絵描き」「水筒」「スケッチブック」「絵の具」といった情報が記憶のネットワークに組み込まれます。左脳は音声で、右脳はイメージで思い浮かべる働きをするそうです。
学校からの帰り道あたりになると、ワーキングメモリ上の持ち物についての情報は消えてしまい、それらは長期記憶に入ります。代わりに「家に帰って何して遊ぼうかな?」「どのゲームで遊ぼうかな」などの新しい情報に置き代わるのです。
そして一晩たった翌朝、天気などを手掛かりに、前日に得た遠足の情報が芋づる式にワーキングメモリとして思い出されます。「いい天気だ! そうだ、今日は公園で絵を描くんだ。絵の具がいるな! 暑くなるから水筒がいるな!」という具合です。
上の例はワーキングメモリがうまく働いたパターンです。
つまり、ワーキングメモリとは「脳の中の黒板」のように情報が一時的に書かれても、すぐに消えてしまうので、必要に応じてそれを復活させなければなりません。上記は頭の中にいったんしまわれた遠足の忘れ物の(忘れてはいけない)情報が、必要なタイミングでワーキングメモリ上に復活できたことになります。
ワーキングメモリが未成熟だと忘れ物が多くなる
湯澤先生によると、ワーキングメモリの容量には大きな個人差があるそうです。
「ワーキングメモリがうまく働けば忘れ物は少なくなりますが、小学校低学年くらいの子どもというのは脳が成長過程にあり、ワーキングメモリが未熟です。『脳の黒板』が小さいため、大人と比べると忘れ物をしやすくなりがちです。
ワーキングメモリが小さく、うまく働かないと、持っていかなくてはならない物を思い出すことができません。それに加えて、『連絡帳をチェックする習慣がない』『いつものルーティンと違うことに気付かない』『注意が散漫になっているので目的を意識できない』などといったことが起こり、忘れ物につながるのです」(湯澤先生)
子どもの忘れ物が多い時に効く4つの対策

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湯澤先生によれば、ワーキングメモリが未熟で、忘れ物が多くなってしまう子どもには、ワーキングメモリがうまく働くように親がサポートしていくことが大切だそうです。
ここでは、子どもの忘れ物が多いときに試したい4つの対策を紹介します。
連絡帳にメモする習慣を付ける
「まず基本的なことですが、小学校の連絡帳に、重要な持ち物について毎回きちんと書く習慣を付けることが重要です。担任の先生が指示する場合が多いと思いますが、先生が持ち物を言ったり黒板に書いたりしたら、きちんと連絡帳に書いてくる習慣を付けさせましょう」(湯澤先生)
連絡帳をチェックする習慣を付ける
「せっかく必要な持ち物について連絡帳に書いても、それを家に帰って内容をチェックしなかったら意味がありません。家に帰ったら必ず連絡帳をチェックする習慣を付けましょう。もし子どもが自発的にチェックしていない場合は、『連絡帳はチェックした?』と親の方から声かけをして、習慣付けるように促してみましょう」(湯澤先生)
リビングにカレンダーを用意し、重要な行事などをメモする

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「ワーキングメモリを機能させるためには、思い出すためのきっかけを用意することが効果的です。リビングに親と子の両方が見られるカレンダーを用意し、重要な行事を書いておく習慣を付けましょう。カレンダーだけでなく、日記を書くことも子どもに『時間の展望』を身に付けさせ、自分で考える力につながります」(湯澤先生)
行事や必要なものを親が問いかけて、子どもが考える力を育てる
「親が指示を出して行事の準備をさせるのではなく、まずは親が子どもに問いかけるということがワーキングメモリを成長させます。イベントがあるなら、その目的を考え、必要なものを思い出させるように親の問いかけを通じて促していきます。
例えば『明日は何の行事があるの?』『忘れ物をしないよう準備した?』などと声をかけて、子どもが自発的に考えて動く力を育てていきましょう」(湯澤先生)
忘れ物が多い子どもに対して、親はどう対処すればいいの?

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湯澤先生によれば、忘れ物をしやすいというのは子どもの特性でもあるため、忘れ物が多いことを叱るのは子どもにストレスを与えてしまうそうです。
「叱ることはネガティブな気持ちを引き起こし、ワーキングメモリがうまく働かなくなります。ワーキングメモリが最も効果的に働くのは、気分がいいときなのです。つまり、叱ることは逆効果です。例えば、子どもが翌日大事な行事があることを前日になってから伝えてきたら、親も困ってしまって『なんでもっと早く言わないの?』と腹も立てたくなるでしょう。しかし叱ることは、子どもの考える力を阻害してしまいます」(湯澤先生)
「忘れ物」という課題について、親が子どもと一緒に考えて工夫し取り組むことが大切と湯澤先生は言います。ネガティブに捉えるのではなく、前向きにどうやったら忘れ物をしなくなるのか一緒に考えてみましょう。
「叱るのではなく、例えば、『前の日に急に言われても準備するのに困るよね。どうしたらいいのかな?』と子どもに問いかけてみましょう。子どもが自問自答できるようになるのが一番良い形です。個人差はありますが、小学校中学年以降は、自分を客観的に認知する『メタ認知』の力が成長するので、自ら物事を工夫し、処理する能力が育ってきます。また、忘れ物が多い子でもスマホを活用できる年代になると、リマインダーなどの忘れ物を防ぐ機能なども活用できますね」(湯澤先生)
忘れ物を減らすことで「ライフマナー」が身に付く!

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ここまで、忘れ物を減らすための対策や、親がどう対応すればよいのかを解説してきましたが、子どもの忘れ物が減ることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
湯澤先生「忘れ物をしないというのは、人が社会で生きるのに必要な『ライフマナー』の一つです。約束を忘れない、時間を守る、などもそうですね。例えば約束の時間を忘れてしまったら友達に迷惑がかかります。そういったことが重なると、友達関係がうまくいかなくなりますよね。ライフマナーが身に付いていないと、対人関係や職場において、不適応を起こしやすくなってしまいます」
忘れ物をなくすことは、「ライフマナー」をきちんと身に付ける第一歩といえそうです。忘れ物をなくすための対策の中で子どもの「メタ認知」の能力を高められれば、課題について自分で創意工夫できるようになり、自立にもつながるでしょう。家族で見守っていけるといいですね。
また、ワーキングメモリの発達とともに、子どもはさまざまなことに対応できるようになります。お留守番を任せられるようになることもその一つですが、子どもの安全のために見守りサービスを利用するのもおすすめです。
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おわりに
湯澤先生のお話から、忘れ物と脳のワーキングメモリの関係や、忘れ物を減らすことが社会で必要な力を身に付けることにつながるということが分かりました。親としては忘れ物をする子どもをただ叱るのではなく、子どもがワーキングメモリをうまく使えるようにサポートしていきたいものですね。
この記事の取材先
もっと見る広島大学大学院教育学研究科教授/一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会・代表理事
湯澤正通
1992年広島大学大学院人間社会科学研究科博士課程後期修了。博士(心理学)。『ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!』(学研プラス)、『ワーキングメモリに配慮した「読み」「書き」「算数」支援教材』(明治図書)、『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート: 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』(合同出版)など著書多数。
一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会
コピーされました
公開日:2023.5.11
最終更新日:2023.5.11
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