簡易研ぎ器はNG!?包丁研ぎは「砥石」で正しく研ぐ
さまざまな道具が揃う町、東京・合羽橋にお店を構える「かまた刃研社」は、1923年創業の包丁研ぎの老舗。同店では、包丁の研ぎ直しのほか、包丁の販売も行っており、さらに一般向けに包丁研ぎ教室を開催しています。
今回教えていただくのは、同社代表取締役の鎌田晴一さん。
「一般家庭で多く使われているのが洋包丁である「三徳包丁」です。包丁には主に片方だけを研ぐ『片刃』と、両方から研ぐ『両刃』がありますが、三徳包丁は『両刃』です。研ぐ際は両面を研ぐ必要があります」と鎌田さんは語ります。
皆さんの中には、車輪状の砥石の間をこするだけで包丁が研げる「簡易研ぎ器」と呼ばれるものを使っている人も少なくないでしょう。
しかし、この簡易研ぎ器は、その形状からエッジの部分だけを研ぐもの。一時的には切れ味が得られますが、以下図のように刃が鈍角に仕上がり、最終的にエッジを厚くし包丁の切れ味を戻しにくくなる可能性があるそうです。
包丁の切れ味を損なうことなく、長く使いつづけるために重要なのが、砥石を使って研ぐことです。しかし、砥石にはいくつも種類があります。どれを買えばよいのでしょうか?
砥石は「荒砥石」「中砥石」の2種類用意すればOK
砥石には「#1000」といった#数字が記載されています。これは粒度と呼ばれるもので、数字が大きくなればなるほど、粒度が細かくなります。
鎌田さんによると、基本は、#200前後の「荒砥石」と、#1000前後の「中砥石」とよばれる2種類を用意すればOKだそうです。2つを組み合わせた両面タイプのものが、場所を取らずに便利。素材も複数ありますが、「セラミックタイプ」が鎌田さんのオススメです。
【包丁の研ぎ方のコツ1】コイン1〜2枚が最適な角度
まず荒砥石(#200前後)からはじめましょう。
研ぐ際は、砥石の表面に水を垂らしますが、荒砥石は水をよく吸います。そこで使う前に5分以上水につけ、石全体に水を含ませましょう。こうすることで垂らした水が、そのまま表面にとどまってくれます。
砥石の用意ができたら、いよいよ研ぎ始めです。利き手で柄の部分を持ち、砥石に対して斜め45度の角度にします。
根本の方から研ぎ始め、切っ先まで4〜5分割にわけて、全体をまんべんなく研いでいきます。
ここで重要なのが、刃の先を砥石に当てる際、コイン1〜2枚ほどの高さに、峰側を浮かせること。
刃を寝かせれば寝かせるほど、鋭角に刃が研げますが、あまり鋭角にすると刃がもろくなります。コイン1〜2枚ぐらいがベストな角度です。
【包丁の研ぎ方のコツ2】黒い泥は洗い流さない!
柄を持っていない反対側の手で、刃をしっかりと砥石に当てて、1箇所で10往復します。
次の場所に移ったらまた10往復と、全体を同じ回数だけ研いでいきましょう。
研ぐ際は、なるべく砥石の全体を使うことが重要です。砥石の端から端まで長いストロークで、しっかりと研けば角度がぶれずに効率良く刃がつきやすくなります。
研ぎ始めると、表面に黒い泥のようなものが出てきます。
刃の汚れだと思い洗い流す人もしますが、これはNG。この黒い泥は、砥石が削れたもので、刃を研ぐための研磨剤の役割を果たすものです。泥がない状態では効率良く刃が研げませんのでご注意を。
【包丁の研ぎ方のコツ3】裏返す際、持ち手はそのままに
片面が終わったら、もう片面も同じように研いでいきましょう。
ところが、単純に持ち手を入れ替えてしまうと、利き手でないために力が入れにくく、安定しづらくなります。
そこで鎌田さんのオススメの方法が、利き手で持ったまま包丁をひっくり返す方法です。
持ちやすい手で持つことで、刃がブレにくくなり、均一の力で研ぐことができます。
入れ替えたことで包丁の柄の部分があたる場合は、刃を砥石に対し直角の状態にして、途中から45度に切り替えれば大丈夫です。
【包丁の研ぎ方のコツ4】中砥石で「カエリ」を小さくする
両面とも各箇所10往復ぐらい研ぐ作業を繰り返すと、刃先に少し「ザラつき」を感じることができます。
これは「カエリ」と呼ばれる、刃のエッジが削れてできたもの。つまり、刃の研げた証です。
しかし、カエリが出たままでは、食材を切る際にカエリが邪魔をして、切れ味は悪くなります。そこで、より粒度の細かい「中砥石」(#1000)でカエリを小さくしていきます。
中砥石での研ぎ方も荒砥石と同じです。中砥石は荒砥石と比べ、粒度が細かく水を吸いづらいため、高価な砥石は水につけておく必要は無いそうです。
いきなり表面に水を垂らして研ぎ始めて大丈夫ですが、不安な方は荒砥石より短い時間、水につけておいてもよいでしょう。
中砥石の役目は、荒砥石で出来たカエリを小さくすること。荒砥石では「カエリ」が出るまで何度も繰り返しましたが、全体を3回ぐらい研げば大丈夫です。
両面とも同じ回数だけ研ぐと、さきほど感じたカエリがほぼわからない状態となります。しかし、この状態でもカエリは完全に取れていません。そこで、最後に仕上げを行う必要があります。
【包丁の研ぎ方のコツ5】最後の仕上げは「新聞紙」
仕上げには、「仕上げ砥石」と呼ばれる#3000以上の粒度のものを使う方法もありますが、一般家庭で複数砥石を購入するのも、置き場所も含め面倒です。
そこで鎌田さんは「新聞紙」を使った、仕上げ方法を教えてくれました。
新聞紙を3〜4枚重ね、写真のように刃を峰方向からこすりつけるようにすると、カエリが取れます。「新聞紙は表面がザラザラしているため仕上げ砥石の代用になるんです」(鎌田さん)とのこと。
新聞紙がない場合は、週刊誌の中面にある紙質が粗いものや、低価格のやわらかい割り箸などを使ってもよいそうです。両面とも何度かこすりつけカエリを取りきってください。
これで包丁研ぎは完了です! 一般家庭の使用頻度なら月に1度ぐらい研げば十分とのこと。
高級な砥石は濡れた状態だと柔らかくなってしまうので、風通しのよいところで一晩乾かしてから収納しましょう。
おわりに
包丁研ぎのプロ、鎌田さん直伝の包丁研ぎの重要ポイントは以下の5つです。
・簡易研ぎ器ではなく砥石を使う
・黒い泥は洗い流さない
・刃の角度はコイン1〜2枚
・「荒砥石」でカエリが出るまで研ぐ
・「中砥石」でカエリを小さくし、仕上げに「新聞紙」
鎌田さんのお店では、包丁研ぎ教室も実施していますので、気になる方はチェックしてみてください。正しく包丁を研いで、快適な料理ライフを!
【お店情報】
かまた刃研社 https://www.kap-kam.com/
〒111-0036
東京都台東区松が谷2-12-6
OPEN: 10:00〜18:00 不定休