歴史ある「そろばん」は現代の小学校の授業でも教わる
子どもの習い事としてそろばん(算盤)を検討したことはありますか?
実は、そろばんは計算力・集中力を高めたりする効果のほか、頭の中でそろばんをイメージして計算する過程で、脳科学の観点からも右脳を鍛える効果が得られるといわれています。
習い事として魅力的なそろばん。何歳頃から始めたらいいのか、効果的な習い方はあるのか、東京都板橋区で60年以上の歴史を持つ新井珠算研究塾の新井哲雄先生に教えていただきました。
「そろばん」ってどんなもの?
そろばんとは計算をする道具の一種であり、珠(たま)を移動させて、その位置で数を表し、計算の補助をするものです。 そのため「珠算」という言葉もあります。
「そろばんは16世紀頃に中国から伝わったといわれ、江戸時代には寺小屋で読み・書き・そろばんという形で指導され広まったとされています。伝来当時は上の玉2つで下の玉が5つの形状でしたが、現在は進化して上の玉が1つで下の玉が4つの形になっています。そろばんと珠算は同じ意味です」(新井先生)
そろばんは、昔から日本人になくてはならない存在だったことが分かりますね。
「私の珠算教室では、最初はそろばんは買わずに、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃんのものを使って構いませんよ、と話しています。そろばんは大事に使えば何十年も壊れず、何世代にも渡って使える道具なのです」(新井先生)
そろばんは小学校ではどう習っている?
現在、小学校では小学3年生と4年生の教科書でそろばんが取り上げられています。2020年度から実施されている小学校の新学習指導要領によれば、「数と計算」という項目で、そろばんを用いて「たし算とひき算ができるようにする」と目標が記載されています。
「小学校でのそろばんの授業は、各学校によって異なりますが、大体は小学校3年生で3時間、4年生では2時間程度です。例えば東京都では、珠算教育関係の団体が共同で、ボランティアとして小学校にそろばんの先生を派遣することもありますし、そろばんに詳しい先生が授業をすることもあります。時間数は多くはありませんが、そろばんの魅力に触れていただく貴重な機会だと思っています」(新井先生)
「そろばん」が開発する子どもの4つの能力
その1 計算・暗算力がつく
そろばんを習うと暗算に強くなるとされ、「珠算式暗算」という言葉もあります。
「珠算式暗算とは、いわば『エアーそろばん』のように、頭の中でそろばんをイメージしながら、実際のそろばんを使わずに計算を行う方法です。子どものうちにこの方法を一度身につけるとずっと忘れないので、受験のときはもちろん、その後も一生役立ちます」(新井先生)
その2 集中する力がつく
「そろばんを習い始めると、椅子に20~30分の間じっとおとなしく座って習うことに慣れていきます。それは子どもの集中力・忍耐力を養うことにつながります。特に小さいお子さんにとっては初めての習い事であることも多いですが、幼稚園・保育園児の保護者さんからは集中力が鍛えられたと喜んでいただけることもあります」(新井先生)
その3 右脳と左脳の両方を鍛えられる
そろばんを習うことは、イメージしながら暗算する力を習うことで、これは右脳と左脳の両方を使うことといわれています。
「そろばんを使うと、右脳と左脳の両方を活性化させるといわれます。 通常の計算では、主に左脳が使われています。しかし、珠算では左脳だけなく、右脳も鍛えられます。なぜなら、暗算をするときというのは、そろばんの珠を頭の中にイメージして浮かべ、そのイメージを実際のそろばんのように動かして計算していくからです。そろばんは右脳と左脳をバランスよく発達させるツールの一つでもあると思います」(新井先生)
その4 STEM教育の基礎につながる力を育てる
数字・計算は科学の共通言語といえます。そろばんを習うと計算に自信がつくので、プログラミングなどにも必要な論理的思考力を育てるのに有利です。
「世の中はどこを見ても数字にあふれていて、数字に触れない生活というのは、まずないですね。学校でプログラミング教育が導入されるなど、数字が必要となる場面はさらに増えており、計算や暗算の能力に自信が持てると、STEM教育の基礎となる力にもつながるかもしれませんね」(新井先生)
子どもにそろばんを習わせたい保護者へのアドバイス
そろばんを習わせるのは何歳からがベストなのでしょうか。新井先生に学習頻度なども含めて、アドバイスをいただきました。
そろばんは何歳から習うのがおすすめ?
「私の考えでは、『そろばんは習いたいときに始めるのが一番』と思っています。そろばんは、幼稚園児からシニアまで、年齢に関係なく習うことができます。最近では小学校受験に役立てたいという需要もあり、満3歳(幼稚園・保育園年少)頃からの学習者も増えています。小さな子には数字の認識、書き取りからやさしく教えていきます」(新井先生)
前述のように、そろばんは「右脳と左脳を鍛えられる」という側面がありますが、能力開発のためには、何歳から始めるのが望ましいのでしょうか。
「子どもの脳を鍛えるという意味では、吸収力のある小学校低学年(7~8歳)頃までに習うと、頭の中にそろばんのイメージを作ることがスムーズにできやすいと思われますので、その後の能力開発にもつながりやすいでしょう」と新井先生。
そろばんを小学校で習って興味を持ち、小学3年生頃から始めるお子さんもいますが、どの時期からでもそろばんの能力は上達できるそうです。
そろばんを習う頻度は?
新井先生によると、そろばんは、できれば毎日触る方が上達しやすいのだそう。
「人間は忘れる動物なので、そろばんを触る時間が空くとやっぱり忘れてしまうんですね。私がおすすめする『習う頻度』は、週3回です。週3回習うと、家での学習が少なくても上達できる場合が多いです。週1回や週2回の場合は、ご自宅で10分でもいいのでそろばんに触る時間を作っていただければ、週3回で習うお子さんと変わらずに上達しやすいでしょう」(新井先生)
検定は受けた方がいい?
複数の団体が検定試験を主催していますが、日本珠算連盟は日本商工会議所とともに、珠算能力検定試験を実施しています。10級から1級まであり、準3級~準1級も含めると13段階あります。
「もし小学1年生から始めた場合、6年間で1級まで上達することも十分可能です。検定はそろばんを続ける目標やモチベーションになるので、指導者としては合格を目指すように励ましています。検定は、足し算や引き算のレベルから始まり、その後は掛け算、割り算などへと進んでいきます。
小学生以下のお子さんでも受験する方は多く、足し算や引き算ができるようになったタイミングで受験することをおすすめしています。検定試験に合格すると、私の教室では合格シールやカードをもらえます。ポイントを貯めると賞品に交換できるようにしているので、それがモチベーションとなって頑張ってくれます」(新井先生)
検定を目指すことはやる気を高めることにもなり、そろばんの継続に役立つようです。
おわりに
日本珠算連盟のホームページに載っている記事によると、そろばんが上手な中学生の珠算中の脳波を計測したところ、主に右脳を使って計算していることが判明したそう。スマホを触る時間が長くなり、日常では「イメージする力」を鍛えにくい現代。そろばん学習は右脳と左脳を鍛え、子どもの可能性を伸ばせる習い事といえそうです。
伝統的な計算道具でありながら、未来に役立つ力を伸ばせるそろばん学習を実践してみるのもいいですね。