早期教育とは? 幼児教育との違いは?
早期教育とは、未就学児である0〜6歳の子どもに対して、知的能力を高める学習や芸術、スポーツなどの教育を行う試みのことをいいます。
一方、幼児教育とは、幼児に対する教育を意味し、幼児が生活する場において行われる教育を総称したものです。幼稚園や保育園での教育も含まれます。
早期教育の種類
早期教育には、さまざまな種類や内容があると言われています。代表的な早期教育には次のようなものがあります。
・先取り教育
ひらがななどの文字、数の学習など、小学校で学ぶ内容を就学前に先取りで学習することです。
・英語
開始時期が早まっている学校の英語学習に対応できるように、またグローバル社会で活躍できることを目的として、未就学時期から英語を学ぶことも増えています。
・音楽
ピアノ、バイオリンなどを幼児期から習う例も早期教育のひとつと考えられます。
・スポーツ
武道や水泳・体操などを、健康のためだけでなく、より高いレベルを目指して幼少から指導を受けるのも早期教育といえるでしょう。
発達段階に応じた学習環境を与えていくことが大切
上で紹介したように、一般的に早期教育にはさまざまな種類があります。
しかし、マルチメディアの幼児教育シリーズ『こどもちゃれんじ』の「考える力」プログラム監修にも携わった発達の専門家である沢井佳子さんは、必ずしも一般的に耳にする早期教育にこだわらなくてもよいと言います。
「早期教育についてはさまざまな考え方があり、定義がはっきり定まっているといえないと思いますので、乳幼児期からの教育に際して、私は早期教育という言葉を使っていません。子どもそれぞれの発達段階にあった学習環境を与えていけるかが大事だと思っています」(沢井さん)
沢井さんによると、子どもの発達というのは、生まれつき内蔵されているプログラムのようなものなのだそう。そして、発達は周囲からの刺激を受けて、順々に姿を現していくそうです。
「子どもの発達は決まった順序で階段状に進み、途中の階段を飛ばしたり、外から無理やりスピードアップすることはできないものです。発達の質的な変化は決まった順序で起こります。『〇歳だから』『早くこれができるようになるべき』と発達段階に合っていない知識や技能を詰め込もうとしてもうまくいかないでしょう。
『〇歳の発達』という形で輪切りにするのではなく、子どもの発達は、10歳ぐらいまでに『できること・わかること』がどのように変化するかを視野に入れて、乳幼児期は、10歳までの発達の土台をつくっている時期なのだと、長い目で考えてみることも大事です」(沢井さん)
生まれたときから発達と学びは始まっている
沢井さんによれば、2歳以下の子どもの発達に関して大事なことは、「一番身近な大好きな人との時間がたっぷりあるか」ということ。大好きな人がそばにいて、その人のまねをして一緒にやってみたり、その人が見るものを一緒に見たりすることが大切なのだそう。
「親や保育者など、自分を保護してくれる人を愛して、深く信頼する感情を『愛着』といいます。ある特定の人と愛情で結ばれた関係になることを『愛着形成』といい、人間の社会性と認知能力の発達のベースになります。おうちの方が食べる様子を見て、『自分もこれを食べていいんだ』と安心するなど、信頼する人の行動を見て、安全に生きていく方法を学んでいるのです」(沢井さん)
これは親としてはぜひ心に留めておきたいことですね。
その上で、子どもの発達について知っておきたいあれこれを沢井さんに解説していただきました。
赤ちゃんは生まれつき多様な能力を持っている
生後直後から発達は始まっています。赤ちゃん時代から備わっている能力の中で、代表的な例を紹介します。
「模倣」
子どもは、生まれた直後から備わった発達プログラムに従って発達していきますが、その学びの原点は「模倣」です。
「私も実際にやってみたことがありますが、生まれて30分後の赤ちゃんに顔を近づけて舌を出してみると、赤ちゃんはまねして舌を出すことができます。身近な人の顔に着目し、模倣する力をすでに備えているのです」(沢井さん)
「エントレインメント(同調)」
大人が話しかけた言葉に対して、赤ちゃんが身ぶり、表情など体の動きで同調することを「エントレインメント」といいます。
「例えば、話せない赤ちゃんでも、親が〇〇ちゃん、と呼びかけたら、黙って聞いていて、話が一区切りしたら、動いて同調したりします。『人と会話する時はちゃんと聞きなさい』とか、教えなくても、すでに聞いて反応する力が生まれつきインストールされているのです」(沢井さん)
「対象の永続性(オブジェクト・パーマネンシー)の理解」
「対象の永続性の理解」とは、手や布で物を見えなくしても、その物は存在していると理解できることです。
「対象の永続性の例として、おもちゃの機関車がレールを走ってトンネルの中に入ったとき、機関車が消えてしまったと思ってしまうか、今はトンネルの中にいるのだと理解できるかは、いつ頃が境目になると思いますか?
0歳3カ月未満のお子さんは、機関車は消えてしまったと思います。でも標準的に0歳5カ月を越えてくると、トンネルの中に機関車がいることが理解できるようになります。対象の永続性が理解できた赤ちゃんは、『いないいないばあ』などの遊びを楽しめるようになります」(沢井さん)
論理を理解する力も、0歳から育ち始めています。対象の永続性を理解することは「ものごとの筋道を立てて考える」論理の基礎として重要です。
子どもの発達には7つの領域がある
沢井さんの著書『6歳までの子育て大全』にも詳しく書かれていますが、発達には7つの領域があり、複数の領域が関わり合いながら進むそうです。
<子どもの発達の7領域>
<子どもの発達の7領域>
論理・・・モノとモノの関係を推理する
数量・・・数概念、量や重さの概念、時間知覚
空間・・・かたち・色・上下左右前後の方向を理解
自然・・・水や光などの自然界の物性・動植物・天体などに関心を持つ
表現・・・身体・表情・声などで表現、音楽・美術工作・作文など
社会・・・人とのやり取り、ルールや社会の仕組みの理解
言語・・・聞いて理解する・話す、文字・記号の意味が分かる
↑
↓
動作・・・7つの領域に関連して、身体を動かす、操作する
出典:『6歳までの子育て大全』アチーブメント出版
乳幼児期は子どもの能力の裾野を広げることが重要
「得意分野を早くから集中して伸ばしてあげたいと考える方も多いかもしれませんが、幼児期はある領域を高度化して伸ばすのではなく、さまざまな能力を連動して使うような活動を増やして、その子の持つ能力の裾野を広げることが大事です」(沢井さん)
子どもの早期教育を考える時に注意したいですね。
家庭でできる0歳からの教育法とは?
発達段階を踏まえた子どもの能力への働きかけは、お子さんと過ごす日常の中で簡単にできます。
「知識を教え込むのではなく、遊びの中で認識の枠組みをつくっていくとよいでしょう」(沢井さん)
0歳から6歳くらいまでのお子さんと遊びながら取り入れられる、おすすめの教育法を紹介していただきました。
論理的思考力を鍛える言葉かけ
ものの関係性や規則性を発見し理解できるようになってきたら、論理的思考を育てるような働きかけをしてあげると、「次はこうなるかな? それとも、ああなるかな?」と予測して考える力を伸ばすことができるそうです。
例1 因果関係を説明する
「子どもがおもちゃを操作していたら、『赤いボタンを押すと、ランプがついてくるくる回るね』と、親がその仕組みを言葉にしてあげると、因果関係を学ぶ遊びになります」(沢井さん)
例2 仲間分けのヒントを与える
「子どもがミニカーやぬいぐるみを分類していたら、『私は形で仲間を分けてみたの。〇〇ちゃんは、どんな仲間に分けるの?』と、別の分け方もあることに気づかせてあげましょう」(沢井さん)
数や相対性の概念を教える
ものの個数の比べ方や数え方、大きい順などに並べる系列化などを、普段の生活の中で理解して遊ぶことができます。
数の概念を教える遊び
「あめを数の異なる2つのグループ、例えば6個と7個に分け、6個を大きな円の形に並べ、7個を小さな円の形に並べて見せて、『どっちが多いかな?』と聞いてみましょう。お子さんは、大きく円状に並べた6個のほうが、小さな円状に並べた7個よりも多いと答えるかもしれません。
どちらが多いか確かめるには、あめを2つの線上に1個と1個がペアになるように並べて、数の多少を比べる『一対一対応』をしてみましょう。6個と7個をペアにして比べれば、7個のほうが1個余ってしまいますから、7個のほうが多いのだとわかります。
その他、数の概念を教える遊びとしては、複数のお人形におもちゃをひとつずつ配って、人形とおもちゃが同じ数であることを確かめる遊びや、散歩中に電車が来たら、車両を数える、などもおすすめです」(沢井さん)
順番に並べる系列化と、長い・短いなどの意味の相対性を教える遊び
「長さがそれぞれ違う12色や24色の色鉛筆があったら、長さの順番に並べる遊びをしてみましょう。4歳くらいまでの子どもは、12本の鉛筆を、短いものから長いものに、1列に並べることができず、短い群と長い群の2グループに分けてしまうことがあります。
長いとか短いとかいう言葉は、比べる相手によって、同じものが長いと言われたり、短いと言われたりするのだ、という『相対性』を理解しないと、長い順や短い順に、ずらりと鉛筆を並べることができないのです。形容詞の意味を正しく理解するためにも、順番という数量の理解や、相対性という論理の理解が、重要な基礎となるのです」(沢井さん)
ひらがなの教え方
ひらがなを学ぶには、読み書きより先に「声を出す言葉遊び」がおすすめだそうです。
「1音節」に「1文字」のルールに気付かせる
言葉を学ぶ時期には、日本語の「ひらがな」は、原則として「1音節」に「1文字」が対応することをリズミカルに学ぶことから始めましょう。
「音節の数だけ手をたたく手遊びをしてみましょう。例えば、『タ・ヌ・キ』といいながら3回、『ネ・コ』といいながら2回手をたたくと、『タ・ヌ・キ』という音がそれぞれ『た・ぬ・き』という、ひらがな3文字に対応するのだとわかります。そうして、1音節と1文字の対応を学ぶことができるわけです。このような音節分解ができるようになれば、ひらがなの文字を読む土台ができたことになるのです」(沢井さん)
「頭音集め」や「しりとり」で遊ぶ
「『あ』の付く言葉は? と頭音集めをして遊んでみましょう。遊んでいるうちに、『あり』『あひる』など、ひらがなの『あ』は同じ音を表す、とひらがなの表音文字としての働きが理解できます。音節の分解が分かれば、単語の頭の音と、末尾の音を取り出して、しりとりを楽しめるようになります」(沢井さん)
看板の文字などを一緒に読む
家の中の文字や街の看板など、子どもが興味を持った文字を一緒に読みましょう。正しく読んだあとで、うしろからさかさまに読む遊びができるでしょうか?
うしろからも読めたら、ひらがな1文字1文字を読み取っているといえるでしょう。歩きながら、言葉を探す遊びを通して、読めるひらがなが自然に増えていきます。
「絵本を開いて『の』はどこにある? などと文字を探す遊びが好きな子もいます。子どもの興味に合わせた遊びで、ひらがなの『形』と『音』を覚えるのを助けてあげましょう」(沢井さん)
乳幼児期の学びでは、子どもが周りの世界の仕組みや働きを自ら発見していくことが大事だそうです。親はその手助け役としてさまざまな問いかけをしていくと、知的好奇心の裾野を広げることができるでしょう。
おわりに
「〇歳だからこれができないと」というように焦ったりせず、子どもの成長と発達を見守りながら、生活の中の学びにゆったりと付き合う姿勢が大事だと分かりました。
子どもは生まれながらにして、自ら学ぶ力を持っています。「愛情深いやり取りの中で、子どもは驚くスピードで広大な領域の能力を伸ばすことができます」と沢井さん。日常の中で子どもの様子をしっかり見ながら、得意なことを伸ばしていけるといいですね。