しつけとは何か?
そもそも、しつけとは何でしょうか。
分かりやすく言うと、「社会の中で健康的に生きていくための行動を身に付けさせること」です。
例えば、挨拶、交通ルール、公共の場でのふるまい方など、多くの人がお互いに気持ちよく生きるための「ルールやマナー」を身に付けること。
また、早寝早起きや食事の作法など、自分が健康的に生きるための「生活習慣」を身に付けること。
これらは、子どもだけではなかなかできるようになりませんよね。
それを大人がしっかりと教え、自分でできるよう導いてあげることが、いわゆる「しつけ」です。
しつけはいつから始めるのが正解?
では、何歳からしつけを意識すればよいのでしょうか?
実は、しつけを本格的に始める前に、まずは「自己肯定感」を育てることが大切だと言われています。
しつけの前に大切な「自己肯定感」とは
自己肯定感とは、「何ができても、できなくても、自分は大切なんだ。自分らしく生きていていいんだ」と思える気持ちです。
しつけとは、子どもが好き勝手にふるまうのではなく、周りや自分のためになる行動をするための練習です。
小さな子どもにとっては、なかなかうまくできず、時間がかかるときもあります。
そんなとき、自己肯定感が育っていれば、できないときがあっても前向きにがんばることができます。
一方、自己肯定感が育っていないと、「自分はダメなんだ」と感じて、やる気が出にくかったり、自信をなくしてしまいます。
そのため、0~3歳では、まずは自己肯定感をしっかり育てることが大切です。
それを土台にすれば、3~4歳ごろからのしつけが身に付きやすくなります。
しつけがしっかり身に付いていれば、小学生になってからの勉強も身に付きやすいと言われています。
自己肯定感を育てるには
小さな子どもの自己肯定感は、「自分の気持ち」をパパやママに認めてもらうことで育っていきます。
「できた/できなかった」という結果や、親から見てどう思うかということに関わらず、子どもの気持ちをそのまま受け止めてあげることが大切です。
例えば、ご飯を自分で食べようとしてこぼしてしまったら、「何やってるの、ダメでしょ!」と叱らずに、「自分で食べたかったんだね」と「やりたい気持ち」を認めてあげること。
転んで「痛いよ~」と泣いていたら、「それくらいで泣かないの!」とは言わずに、「よしよし、痛かったね」と「泣きたい気持ち」を受け止めてあげること。
親は我慢や根気が必要になりますが、こうした温かなコミュニケーションの積み重ねが、子どもの自己肯定感を育ててくれます。
そして、「できても、できなくても、パパ・ママは自分を大事にしてくれる。だから、がんばって挑戦してみよう」という気持ちにつながっていきます。
年齢に合わせたしつけの準備を
そうは言っても、0~3歳では全くしつけをしないというのも、少し心配になってしまいますよね。
0~3歳では、自己肯定感を育てながら少しずつしつけの準備をしていき、社会性が発達する3~4歳ごろから本格的なしつけをしていくことをおすすめします。
次からは、年齢に合わせた具体的な方法をお伝えします。
0~1歳のしつけの方法
0~1歳の子どもは、まだ自分の行動をコントロールすることがほとんどできません。逆にこの時期は、赤ちゃんの自然な動きや行動を制限しない方が、体や脳の発達にとってよいと言われています。「◯◯しちゃダメ」と言っても理解できないので、段差やコンセントや危険物など、危ないものには大人があらかじめ対策しておくことが必要です。
1歳ごろになると、食事や遊びでものを散らかすことにも悩まされます。そんなときは、例えば、こぼしてもいいよう床にシートを敷いておく、破ったりラクガキしてもいい紙を与える、ビーズコースターなど散らかりにくいおもちゃを用意するなど、大人の方で工夫をして乗り切りましょう。
また、理解できなくても言葉をかけていくことも、言葉の発達にとって大切です。特に、自分の気持ちを言葉にできるようにすることが、これからのしつけの準備にもなります。「ごはん、おいしいね」「おふろ、きもちいいね」など、子どもの気持ちを言葉にするような声掛けをしていきましょう。
2~3歳のしつけの3つのポイント
歩けるようになって行動範囲が広がり、「あれがしたい」「これが欲しい」という自我も発達する2~3歳。
一方で、親の言うことに「イヤ」「やらない」と反抗することが増えていきます。
これが、いわゆる「イヤイヤ期」です。
この頃になると、少しずつ言葉を理解できるようになってきますが、理解はできても従うことはできません。
それは、「理性」を司る脳の部位(前頭前野)が、まだ発達していないからだと言われています。
だから、言葉で言い聞かせてしつけをするのは、まだ難しい時期です。
この年齢からしつけとしてできることは、3つあります。
1. 毎日の繰り返しで、体に習慣付ける
「ごはん食べなさい」「お風呂入ろう」と言葉で言っても、「イヤ!」となりがち。
でも、早寝早起き、食事やおやつ、お風呂などを、毎日同じ時間に繰り返すことで、自然と体が動きやすくなっていきます。
安定した生活リズムは、脳や体の健やかな発達にとっても大切です。
2. 気持ちは認めて、行動は止める
自己肯定感を育てるために、子どもの気持ちを認めることは大切ですが、行動範囲が広がると、人に迷惑を掛けそうなことも増えてきます。
そんなときは、「気持ちは認めながら、行動は物理的に止める」ことがおすすめです。
例えば、滑り台で横入りしようとしたら、「早く滑りたいんだよね」と子どもの気持ちを認めつつ、「でも順番だよ」と、抱っこして列の後ろに連れて行きます。
この時期は、ただ自分の欲求を通したいだけで、わざと人を困らせてやろうといった悪気があるわけではありません。
「横入りしないの!」と言葉で叱るのではなく、子どもの気持ちを受け止めながらも、いけない行動は物理的に止めましょう。
3. 大人がお手本を見せる
この時期、子どもは言葉で言われたことから学ぶよりも、大人の表情やふるまいを見て吸収し、マネをしながら学んでいます。
だから、まずは大人が正しい行動を見せてあげることが大切です。
例えばお友達とケンカしたときに、「ごめんなさい」を無理やり言わせるのではなく、大人が心を込めて相手に「ごめんなさい」と言うところを見せる、といったことを心掛けてみましょう。何度もお手本を見せ続けることで、少しずつできるようになっていきます。
4歳からのしつけの3つのポイント
イヤイヤ期には個人差がありますが、およそ3歳ごろまでと言われています。
これを抜けた3歳後半~4歳ごろから、子どもは簡単なルールや約束を守れるようになり、コミュニケーション力も発達して、社会性が芽生えていきます。
4歳以降の子どもに、本格的なしつけをするための3つのポイントをお伝えします。
1. 「気持ち」は否定せず、正しい「行動」を教える
この年齢の子どもは、「正しいことをしたい」という気持ちが自然と芽生えてきます。
ただし、何が正しくて何がいけないのか、まだ分からないこともありますし、分かっていてもついやってしまうこともあります。
そこで大切なのは、「気持ち」と「行動」を分けて捉えて、「気持ち」は否定せずに認めながら、正しい「行動」を教えることです。
例えば、お友達とおもちゃを取り合ってケンカしてしまったら、「どうしてケンカしちゃったの?」と理由を聞きます。
その上で、「そっか、おもちゃが使いたかったんだね」などと気持ちを認めながら、「でもケンカはいけないよ」と、正しい行動を教えます。
2~3歳だと、自分の気持ちを言葉で言うのは難しいですが、4歳以上になると、少しずつ言えるようになっていきます。
「どうしたらいいと思う?」と、正しい行動を自分で考えるきっかけをあげたり、「代わりにこっちを使ったらどうかな?」と、問題を解決する行動を提案してあげるとよいでしょう。
2. 「できる⇔できない」の行ったり来たりを受け止める
この年齢になると、自分でできることが増えて、「自分でできる」「自分でやりたい」という気持ちが出てきます。
でも、ずっとがんばっていると、子どもはだんだん不安になったり、疲れていきます。
それで、一度できるようになったことも、「やっぱりできない」「やりたくない」という気持ちに戻ってしまうことが、この年齢にはよくあります。
親としては、つい「もうできるんだから、甘えないの」と言いたくなってしまいますが、そうすると子どもは、「もう自分のことは大事じゃないのかな」と不安になってしまいます。
「甘える」というのは、実は成長のための大切なプロセス。
そんなときは、なるべく手伝ってあげたり、スキンシップを増やしたりと、あえて甘えさせてあげましょう。
たっぷり甘えて安心できれば、またできるようになり、新しいことにもがんばれるようになります。
3. 結果だけではなく、プロセスも褒める
しつけでは、褒めることが大切と言われます。
ただし重要なのは、「上手にできた」という結果だけを褒めることではなく、「よくやろうとしたね」「がんばったね」などと、プロセス(気持ち)を褒めてあげることです。
もちろん、学校や社会に出たら、プロセスよりも結果が評価されるかもしれません。
でも、だからこそ、幼児期の家庭では子どもの気持ちを認め、自己肯定感を育ててあげることが大切なのです。
また、結果の大小に関わらず、ちょっとしたがんばりを認めてあげることも大切です。
ちょっとした約束が守れたときや、怒るのを我慢できたときなど、「できて当たり前」と思わずに、「ありがとう」と感謝を伝えたり、「とってもうれしいよ」と喜んであげましょう。
すると、「またやってみよう」「もっとがんばろう」という前向きな気持ちが育っていきます。
やってはいけない、しつけの方法5つ
厳しすぎるしつけは、子どもの健全な成長にとってマイナスです。
大切なことは、しつけとは、子どもが社会で健康的に生きていくための行動を、子ども自身ができるようにするためのものであって、子どもが親の言うことを何でも聞くようにするためではない、ということです。
具体的に、やってはいけないことを5つお伝えします。
1. すぐに結果を求める
しつけには、そもそも時間がかかるものです。
同じことを、何度も繰り返し根気よく伝えていく必要があります。
すぐに結果を求めて、親が焦ったりイライラしてしまうと、言動も厳しくなりがちです。
短期間で何度も繰り返し叱られると、子どもの自己肯定感も下がってしまいます。
「しつけには時間がかかるものだ」と思って、長い目で見ていきましょう。
2. 他の子と比べる
子どもには個人差が大きく、教えたことができるようになるスピードもそれぞれ違います。
「◯◯ちゃんはもうできるのに・・・」と、お友達や兄弟姉妹と比べてばかりいると、その子なりにがんばっている気持ちも否定することになってしまいます。
人より早くやらせようとするよりも、しっかり身に付いて、自分からできるようになることの方が大切です。
周りと比べすぎず、その子のペースを尊重しましょう。
3. 一方的に命令する
しつけは、子どもが自分からできるようになることが大切です。
「◯◯しちゃダメ!」「◯◯しなさい!」と一方的な命令をして子どもを従わせてばかりだと、一見早くできるようになるかもしれませんが、子どもの主体性が育たず、指示がないとできなくなってしまいます。
いけないこと、やってほしいことをしっかり伝えながらも、子どもの気持ちも認め、子ども自身が考えられるようにすることが大切です。
「言われたからやる」ではなく、「やるべきだからやる」と、子どもが自分からできるようになることを目指しましょう。
4. 怖がらせる・脅す
「◯◯しなかったら✕✕するよ!」と、子どもを怖がらせて言うことを聞かせようとするのは、誰しもついやってしまうかもしれません。
しかし、これは本質的には「脅し」であり、恐怖で子どもを従わせようとすることです。
一時的な即効性はあるかもしれませんが、そればかりに頼っているとだんだん効かなくなり、より怖いものを・・・とエスカレートしてしまう危険性もあります。
また、子どもが「脅し」を覚え、お友達に対してもするようになる可能性もあります。
時間がかかっても、親自身が正しい行動をやって見せたり、根気よく言い聞かせ続けることが大切です。
5. 罰を与える
しつけのために、何かできなかったら罰を与えるというやり方をするのは、子どもの心身の成長に悪影響があるということが、世界中の研究からはっきりと分かっています。
それを背景に、2020年4月に児童福祉法が改正され、体罰の禁止が明文化されました。
直接叩いたりするだけでなく、食事やおやつを抜く、押入れに閉じ込める、正座をさせるなど、どんな罰であっても、子どもは「罰が怖いから」という理由で行動するようになります。
すると、何が正しいことなのか、本当には理解できなくなってしまいます。
できないときに罰を与えるのではなく、できる・できないに関わらず、がんばっているプロセスを認めてあげることで、子どもは「またがんばろう」という気持ちで取り組むことができます。
しつけと虐待の違い
上記の1~5が行き過ぎてしまうと、「虐待」となります。
虐待には、「身体的虐待」や「心理的虐待」などがあります。
心理的虐待は、何度も大声で怒鳴りつける、「ダメな子」など人格を否定するようなことを言う、兄弟姉妹で扱いに大きな差をつけるといったことも含みます。こうした心理的虐待は、体罰以上に脳に深刻なダメージを与えると言われています。
正しいしつけとは、子どもが親の言うことを聞くようにすることではなく、子どもが社会で健康的に生きていくための行動を、子ども自身ができるようにするためのもの、ということを忘れずに、子どもを尊重したしつけをしましょう。
おわりに
しつけとは何か、社会のルールやマナー、生活習慣などをきちんと教えながら、伸び伸びと育てるためのしつけの方法についてお伝えしました。
しつけには、時間と根気が必要なもの。
親としては大変なときもありますが、子どもの気持ちやペースを大切にしながら教えてあげたいですね。