小・中学校の英語教育の現状は?
2020年の教育改革で、英語教育の低年齢化が進んでいます。それまでの学習指導要領では、公立小学校においては5・6年生のみが外国語活動の対象でした。しかし、現在では小学校3・4年生を対象に行われるようになり、小学校5年、6年になると正式な科目として評価もつきます。
かつてのように「英語は中学生から」とはいかなくなり、不安になっている保護者の方も多いかもしれません。『がんばりすぎない!おうち英語』の著者でもある英語講師&コーチ・サヤコさんに現状について伺いました。
サヤコさん「2020年以前は日本の英語教育が遅れている印象がありましたので、小学校3年からの外国語活動スタートについて私は賛成です。小学校で使う教科書も質のいい教材だと思います。ただ気になるのは、小学校で英語教育が始まったことによって、中学校以降の英語の難易度が上がってきていることです。例えば、以前は中学校の教科書で習得すべき単語数は1,200語程度だったのが、現在は1,600~1,800語程度に増えてしまって、私の生徒さんも覚えるのに苦労しています」
子どもの頃から英語を学ぶべき理由とは?
現在、世界人口の約3分の1にあたる人々が、英語を公用語・準公用語として使用している国に暮らしています。※1
そして、学術研究やグローバルビジネス、また近年世界経済をけん引しているIT業界の共通語も英語であるため、今後は英語が今まで以上に重要なツールになっていくと考えられます。
サヤコさん「子どもたちが活躍する未来を考えると、今後人口が減少していく日本にとっては、海外市場を考えることが重要です。日本語しか話せない人材は活躍の場が限られてしまうので、子どもの可能性を広げるためにも実践的な英語を身に付けてもらいたくて、日々指導に当たっています」
また、アメリカ国務省の研究によると、日本語話者が英語を習得するのには約2,200時間かかるといわれています。※2
「学校にもよりますが、小中高の英語の授業を全て足しても、その約3分の1の時間にしかならないでしょう。この2,200時間を積み上げていくためには、おうちでの学習習慣がとても重要になります」とサヤコさん。
英語を話せるようになるには、水泳ができるようになる、というのと同じようにまずはスキルを身に付けることが優先です。
サヤコさん「泳げるようになるためには、まず泳ぐ技能を習得することが必要なように、英語を話せるようになるためには、基本的な英語を技能として習得しなければなりません。まずは『技術』を学び、それ以上極めるかどうかはお子さん次第です。皆がオリンピックのレベルを目指す必要がないのは、水泳と同じ。小さな頃から英語のテストや検定に力を入れ過ぎて、英語嫌いにしてしまったりしないよう、子どもの特性や興味を見ながら英語学習を進めていただきたいですね」
※1:Benesse 教育研究開発センター「調査データ クリップ! 子どもと教育」
※2:U.S.DEPARTMENT of STATE Foreign Language Training
気軽に学ぶ「おうち英語」のすすめ
さまざまな分野で活躍できるチャンスを与えてくれる英語。サヤコさんは、「英語習得の第一歩は、まず英語を好きになること」と強調します。
塾やスクールに頼らなくても、おうちでできる「おうち英語」の取り入れ方について、サヤコさんに教えていただきました。
子どもと親が一緒に楽しむのが「おうち英語」
「おうち英語」を始める上で大切なのは、子どもの「自分は英語が好き」という感覚を育むことと、「親自身が一緒に英語学習を楽しむ」ことです。
「お子さんが小さかった頃、どうやって日本語が話せるようになったかを思い出してみてください。言葉が分からなくてもたくさん話しかけたり、絵本を読んであげたりしませんでしたか? 英語についても、同じように気軽に考えればいいのです」とサヤコさん。
「英語は苦手だから子どもには得意になってほしい」という方は多いでしょう。おうち英語を進めるにあたっては、親が英語を得意である必要はありませんが、英語への前向きな姿勢がとても重要になります。
サヤコさん「親が子どもに『体に良いものを食べなさい』と言いながら、実際はジャンクフードを食べていたら説得力がないですよね。同様に、『英語をやりなさい』と伝えるだけでは子どもはやる気にならないものです。子どもは親を本当によく見ています。まずは親が英語を楽しもうとしている姿勢を見せましょう。英語のゲームを一緒にする、英語の絵本をアプリで楽しむ、英語のYouTubeを楽しむ、どんなことでもいいので子どもと一緒に、気軽に英語を楽しんでみましょう」
「おうち英語」を始めるならいつ?
学校で英語の授業が始まった時、子どもが「英語って難しい」と苦手意識を持たせないようにするためにも「おうち英語」が役立ちます。早めに英語に親しんでおいて、学校で習う時には「これ知っている!」と思える状態にしておくことが、英語に自信をつけるコツです。
そして、英語の授業が始まったら、おうちで教科書の復習をするのもよいとのこと。今は教科書にQRコードが付いていて、英語の音声をスマホで聴くこともできるそうですよ。
サヤコさん「おうち英語のスタート時期は、小学校入学前後が一つのタイミングかもしれません。その頃からおうち英語で少しずつ英語に慣れて、3年生になると学校で英語の授業がスタートするという形にしていくということですね。幼児期に始めるのであれば、耳から始めるのがいいでしょう。英語の歌やお話で耳から英語を聴いて、少しずつ英語に親しむのがいいと思います。週に2回、30分ずつくらいからでいいので、無理のないやり方で始めましょう」
楽しみながら学ぶ! サヤコさんおすすめ「おうち英語」教材
英語って楽しいな! というイメージを持たせるために、まずは英語で遊ぶ、楽しむことから始めるのがおすすめ。幼児から中学生まで、子どもと親が一緒に学べる、サヤコさんおすすめの教材をピックアップしてもらいました。
カードゲーム系のおすすめ教材
『長友先生のワールドセレクション 英語ゲーム 英語とフォニックスでビンゴ! アルファベットビンゴ』(ドリームブロッサム)
小さい子でも楽しめる英語のビンゴゲームで、アルファベットとフォニックス(発音と文字のルール)の読み方を、両方同時に学ぶことができます。
見掛けはカラフルなボードゲームなので、お遊び感覚で英単語を学ぶことができます。単語を全て覚えてしまったら、アルファベットが出たら自分の知っている単語を言うルールを取り入れるなど、いろいろとアレンジしてみましょう。
『NHKえいごであそぼ えいごかるた CD付き』(幻冬舎)
付属のCDでお子さんと一緒に、単語の発音を練習してみてください。そして単語を少しずつ覚えながら、かるた取りを楽しみましょう。このかるたの優れている点は、最初は親が読み、だんだん子どもが読むことを増やすことで、お子さんのレベルによって遊び方をレベルアップしていくことができ、何年も使えることです。
『AGOフォニックス アクア レベル1 第2版 英語カードゲーム』(AGO Educational)
UNOが好きなお子さんはとても多いので、純粋にゲームとして楽しんでもらえる教材。遊んでいるうちに、いつの間にか単語を覚えることができます。サヤコさんの生徒さんにも人気の教材とのことで、中学生まで使えます。
Q&Aシリーズの方は、その名の通り質問と答えが各カードに書かれています。
絵本系の教材
『CD付き 子どもとたのしむ はじめてのえいごえほん せかいのおはなし1』(くもん出版)
『おおきなかぶ』『うさぎとかめ』『きんのおの ぎんのおの』の3話と、英語の歌3曲が収録されています。日本語で絵本を読んだ後、CDで英語のお話を聞きましょう。
英語の表現を学ばせるというより、まずは英語の音が流れている状態に慣れてもらうことに意味があるでしょう。
英語学習が三日坊主になりがちな子はどうしたらよい?
英語の上達は日々の「継続」が鍵です。そのために、サヤコさんはカレンダーや手帳の活用をすすめています。
サヤコさん「月日の感覚が分かるようになったお子さんには、ぜひカレンダーや手帳の導入をおすすめしたいです。本格的な手帳でなくても、インターネットで無料で入手できる年間と月間カレンダーを探して、プリントアウトするだけでも構いません。そして、任意の日付のところにお子さんと相談して決めた英語についての目標を書き込み、その日までに達成することを目指します」
手帳には、月間の目標と、おうち英語の時間を記入しましょう。手帳の記入が難しいお子さんには、親が書いてあげましょう。
目標は難し過ぎるものは避け、例えば「英語の絵本を1冊読む」「挨拶を5種類覚える」「英語を10個覚える」といった達成できそうなものにします。いつまでに何をするということを「視覚化」「言語化」「数値化」してあげることが大事なのです。
予定通り勉強できたら、シールを貼ってあげる、花丸を描いてあげるなどすれば、モチベーションの維持につながるはずです。
「一つ目標を達成するごとに、英語への自信が得られます。私の生徒さんにも取り入れてもらって、効果を感じています」とサヤコさん。
一つずつ積み重ねて目標を達成することを、子どもにも分かりやすく提示してあげるのが、おうち英語を続けるコツともいえそうですね。
おわりに
子どもの英語学習は「英語を学ぶことの喜び」を体験させることが何よりも大切ということが、英語講師&コーチ・サヤコさんのお話から分かりました。
まずは週に1、2回でもお子さんが、「英語は難しくない! 楽しい!」と思える時間をつくることが、英語を好きになる第一歩です。
親子で一緒にカードゲームなどを通して、おうちで楽しく英語に親しむことから始めてみましょう。