「浅い睡眠」とは? 不眠症や睡眠障害との違い
もっと寝たいのに途中で覚醒してしまう。日中に強い眠気を感じる・・・。そんな悩みがあったら、「浅い睡眠」になっているかもしれません。睡眠は長さだけでなく質も大切だといわれていますが、浅い睡眠とはどのような睡眠なのでしょうか。その原因や対策とは? エムール睡眠・生活研究所の睡眠改善インストラクター・睡眠健康指導士の沢田 裕さんにお話を伺いました。
ーーーそもそも浅い睡眠とは? 睡眠の深さとは何なのでしょうか。
(沢田さん)中途覚醒せずにしっかり眠れた感覚がある睡眠を「深い睡眠」、逆にそうした感覚が得られない睡眠は「浅い睡眠」ということができるでしょう。以下のような項目が該当すれば、睡眠が浅い可能性があります。
浅い睡眠チェックシート
◻︎ 日中に強い眠気がある
◻︎ 寝つきが悪い、就寝後30分以上経っても眠れない
◻︎ 布団に入った瞬間に寝落ちしてしまう
◻︎ 目覚めが悪く、なかなか起きられない
◻︎ しっかり休めている感覚がない
(沢田さん)ただ、実際には、睡眠の深さや睡眠の質を測るには、睡眠中の脳波や筋電図、眼球運動を測定する必要があります。睡眠外来を受診し、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)と呼ばれる医師の検査を経て判定されます。チェックシートに該当項目があり、そうした事象が2週間以上続く場合には睡眠外来の受診を検討しても良いでしょう。昨今では睡眠外来も増えており、大きな病院でなくクリニックなどもあります。
沢田さんによると、チェックシートの結果に一喜一憂するより、定点観測して変化を見ていくことが大事なのだそう。
寝る前のスマートフォン、アルコールや喫煙、日常的なストレスなど、睡眠を阻害する要因が特にないのに、しっかり眠れて休めた感覚(=睡眠休養感)がない、疲れが取れない日々が続いているなどの場合には、浅い睡眠になっているかもしれません。
「レム睡眠=浅い睡眠」というのは誤解だった!?
ーーーレム睡眠が浅い睡眠、ノンレム睡眠が深い睡眠といわれていますが、レム睡眠が多いと浅い睡眠になるのでしょうか?
(沢田さん)実は「レム睡眠は浅い」というのは誤解なんです。レム睡眠、ノンレム睡眠は脳波や筋電図、眼球運動を測定することで睡眠の段階を示したものですが、端的に睡眠の深さを示すものではありません。
レム睡眠とノンレム睡眠の違いは多様ですが、休んでいる身体の部位が異なることがその1つです。レム睡眠では脳の一部が活発に動いていて夢を見やすく、体の筋肉は弛緩していて外の刺激に反応しにくい傾向があります。一方、ノンレム睡眠とは、睡眠ステージが3つあり、3に近づくほど神経や大脳が休息状態に近づいていきます。
レム睡眠、ノンレム睡眠、それぞれの長さが大事なのではなく、一晩の中で、ノンレム睡眠の3つのステージやレム睡眠のサイクルを経ていくことが大切です。すべての段階を経ることができていれば、質の良い睡眠が得られているといえるでしょう。
睡眠が浅くなる原因や生活習慣とは?
睡眠が浅くなる原因や生活習慣とはどういったものなのでしょうか。
(沢田さん)私たちは、身体が疲れることで訪れる眠気「睡眠圧」と、夜だから眠くなる「生体リズム」の2つの要素によって夜眠くなるといわれています。
まず、睡眠圧を高めるためには、日中、適度な運動や活動をして脳や身体を使うこと。生体リズムを整えるためには、夜は静かな暗い寝室で眠ること、また朝はしっかりと光を浴びて生体リズムをリセットすることや、毎日なるべく同じ生活リズムで暮らすことが大切です。
【睡眠が浅くなる生活習慣の例】
- 日中、あまり身体を動かさず、家の中で何もしない
- 日中、他者とコミュニケーションをとる機会が少ない
- 夜、明るい部屋で就寝している
- 寝起きする時刻や食事時刻などの生活リズムが日々大きく変わる
- 夜間に、アルコールやカフェインを摂取する習慣がある
逆に以下の生活習慣を身につけると睡眠の質が向上し、浅い睡眠になりにくくなるとのこと。
【睡眠の質を高める生活習慣】
- 午前中に、30分以上光を浴びる
- 毎朝、朝食を取る
- 日中、誰かと会話したり、散歩して頭や体を使うことを心がける
- 夕食後、明かりを徐々に暗くしていく
- 寝る90分前にゆったりと入浴する
- 夜は、音や光などの外部刺激を遮断して就寝する
- 毎朝、なるべく同じ時間に起きて、毎晩、だいたい同じ時間に寝る
※生活リズムの変化は60分以内に調整する
なお、朝食でトリプトファンを含む食材を摂取することも大切だと沢田さん。トリプトファンは夜の眠気を誘う睡眠ホルモンといわれるメラトニンの材料になるためです。朝食が寝つきにも影響するいえます。大豆製品や乳製品に含まれるトリプトファン。チーズや味噌など朝ごはんに取り入れやすい食材も数多くあります。
また、身体の深部体温(身体の内側の温度)が下がると眠気に繋がります。皮膚体温(身体の表面温度)を上げると、深部体温が下がりやすくなるため、就寝の90分前を目安に、浴槽でゆったり入浴するのもおすすめです。寝る直前に長湯をすると逆に体温が上がりすぎてしまい眠りにくくなってしまうので、長湯したい場合には、寝る90分以上前に済ませる必要があります。寝る直前に入浴したい場合には、湯船に入る時間を短くしたり、シャワーで済ませたりと工夫すると良いでしょう。
寝溜め禁止! 浅い睡眠を招く、やりがちなNG習慣
アルコール、カフェインやタバコを嗜む
「夜間のアルコール、カフェイン、喫煙は基本的にすべて睡眠にはマイナスです」と沢田さん。カフェインに覚醒作用があることは知られていますが、アルコールも睡眠への悪影響に。飲酒後は寝つきは良くなりますが、心拍数が上がり、利尿作用もあるため、夜間に途中覚醒しやすいのだそう。
アルコールやカフェインを摂取したい場合には、就寝までの時間を空けたり、水を飲むなどして、しっかり代謝させてから眠りにつく必要があります。
また、タバコは喫煙後、覚醒作用が数時間続くことがわかっています。寝る前のリラックス習慣にされている方は、なるべく就寝時刻から離すようにしてください。もちろんできれば禁煙がベストです。
土日に寝溜めする
平日は忙しくて短い睡眠時間で済ませ、土日で寝溜めをする人もいますが、生活リズムが日によって大きく変わるのは、睡眠の質を下げるだけでなく、私たちの身体の中にある体内時計(生体リズム)を乱し、不調の一因になることも。働く世代の大人だけでなく、長期休み中の子どもや日中の活動量が減った高齢者にも見られる現象として、昨今、ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)が問題となっています。
寝起きする時刻は毎日プラスマイナス60分以内(できたら30分以内程度)で調整すると良いでしょう。土日に寝溜めをする習慣があると、月曜日に頭がぼーっとしてたり、食欲や意欲が湧かなかったり、学校や仕事にもマイナスの影響が出てしまう可能性があります。リズムを安定させたい方は、朝から揃えるのがおすすめです。なるべく毎朝、同じくらいの時間に起きて光を浴び、日中は活動的に過ごし、夜は眠くなったら眠る、これを2~3週間程度続けていくことでだんだんと生活リズムが安定してきます。
夕方以降にスマートフォンを見る
朝、光を浴びることで体内時計がリセットされて、脳も身体も覚醒します。寝室の明るい電灯やスマートフォンのブルーライトにも覚醒作用がありますので、明るい部屋で過ごしたり、スマートフォンを見ていると、身体が夜ではなく昼だと誤解してしまい、本来眠くなるタイミングに目が冴えてしまいます。
スマートフォンはテレビやPCと比べて、目からの距離も近く、覚醒効果が高いこともわかっています。就寝時刻の1時間前には手放していただきたいところですが、どうしても見たい場合は、ナイトモードやダークモードで使用したり、目からなるべく離して見るようにすると良いでしょう。
睡眠の質を高める工夫
睡眠の質を高めるためには、寝室の温度が高すぎないことも大切なのだそう。暑い部屋では深部体温が下がりにくく、中途覚醒が増えます。寝室の気温や湿度が適切か改めて確認しておきましょう。
また、寝具の選び方も大切だと沢田さん。体を支えるマットレスが硬すぎると痛みが出たり、寝返りしにくいと体温調節が上手にできず、中途覚醒が増えたり、血行不良にも繋がります。スポーツ選手が使用しているマットレスを好んで買う人も多いですが、筋肉量の多いスポーツ選手向きのマットレスは一般の方には合わないことも多いそう。ご自身の体格にあった寝具を選ぶことが大切です。
加えてストレスも睡眠の大敵だと言います。ストレスを受けた時、コルチゾールというホルモンが分泌され、心拍数を上げてストレスから身体を守ろうとします。このコルチゾールは、朝、自然に目覚める時に分泌量が増えるホルモンでもあり、覚醒効果があります。寝る前までストレスが高い状態が続いていると、コルチゾールが分泌され、睡眠の質が下がってしまうのだそうです。
意識的にリフレッシュの時間を取ったり、リラックス効果があるストレッチやアロマを取り入れて、ストレスを溜めないよう工夫できるといいですね。お子さまへの注意やパートナーとの議論が必要な場合には、やり取りの中でストレスを受けてしまうことも想定されます。こうした場合は夜ではなく昼間や夕方が良さそうです。
おわりに
自分の睡眠課題を知って、寝室環境や生活習慣を整えるスキル「睡眠セルフマネジメント」は昨今、注目されています。睡眠は夜だけ意識すればよい印象があるかもしれませんが、朝から1日を通した生活習慣が夜の睡眠に影響してきます。
ただし、沢田さんによると、すべて完璧にやろうとして、ストレスが溜まってしまい不眠になってしまうこともあるのだそう。効果が実感できたこと、習慣化しやすいもの、続けやすいものから始めることが長く続けられるポイントかもしれません。また、年代やライフスタイルによっても必要な睡眠時間や睡眠課題は変わっていくそう。年に1度は点検して「睡眠セルフマネジメント」を行ってみると良いかもしれませんね。