災害時に最小限の資源と道具でできる調理方法とは?
地震や台風などによる自然災害は、ある日突然、私たちに襲いかかります。万が一災害に見舞われた時、最近では「被災したらすぐに避難所へ」という考えだけではなく、選択肢のひとつとして住み慣れた我が家で生活する「在宅避難」が注目され始めています。
避難生活は心身ともに疲弊するもの。健康維持のためにも温かく栄養バランスのよい食事で体調を整えることが大切ですが、電気・水道・ガスなどのライフラインが寸断されてしまうと思うように調理できるとは限りません。また、物流がストップすれば食品が手に入りにくくなり、避難生活が長引くほど、野菜不足からビタミン、ミネラル、食物繊維などの摂取が難しくなっていきます。
こうした状況を乗り切るには、普段からの備蓄や防災力がものを言います。
食料の備蓄であれば家族が最低3日間、できれば1、2週間過ごせる量を目安に、主食になるもの、おかずになるもの(そのまま食べられるもの、水やお湯を使うもの)、おやつになるもの、飲み物(水分)になるものと大きく分類して、バランスよくストックしておくことが大切です。いつもの食事シーンを思い浮かべて、普段から消費しながら備えられる食材を考えてみましょう。
防災力のひとつとして今回ご紹介するのは「お湯ポチャレシピ(R)」です。
食材を入れたポリ袋を湯せんするだけで、ごはんや野菜たっぷりの味噌汁、丼もの、パスタまで作ることができます。必要最小限の道具で調理ができ、湯せんに使ったお湯は繰り返し使えるので貴重な水の節約になります。さらに、ひとつの鍋で同時にさまざまな料理を調理することができるので、ごはんとおかず、味噌汁など何種類でもひとつの鍋で作ることが可能です。
この調理方法を教えてくれるのは「お湯ポチャレシピ(R)」の名付け親であり、防災食のプロ、管理栄養士、防災士、災害食専門員の今泉マユ子さん(以下、今泉さん)です。調理のコツや自宅の備蓄食材を活用するバリエーションに富んだレシピなど、一度は実践してみたくなる工夫とアイデアが満載です。
まずは調理のポイントを知っておこう!
(今泉さん)「お湯ポチャレシピ(R)」はとても簡単な調理方法ですが、ちょっとしたポイントがあります。
まずは、調理に必要な以下のものを揃えましょう。
・高密度ポリエチレン製のポリ袋
・鍋
・水
・鍋に敷くお皿やザル
・ガスコンロまたは、カセットコンロとガスボンベ
・トング(菜箸)やキッチンバサミ
災害が起きてライフラインが止まった時は、カセットコンロとガスボンベを使うことになります。ガスボンベの数は足りていますか? ガスボンベにも使用期限があります。消費しながら備蓄することを意識して、毎月1回はカセットコンロを使う機会を作りましょう。
それでは、3つのポイントをご紹介します。
【ポイント1】ポリ袋は表示をチェック!
この調理に欠かせないのが、半透明の高密度ポリエチレン製のポリ袋です。高密度ポリエチレン製と表示されているもの、もしくは湯せん調理可と明記されているものを用意しましょう。そうでないものだと調理中に熱で袋が溶けてしまう場合があります。透明のポリ袋は、耐油性・耐熱性が低いため加熱調理には向きません。
高密度ポリエチレン製のポリ袋は、スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、コンビニエンスストアなどに売っています。100円均一ショップでも売っていることがありますので探してみてください。普段使うものを変えるだけでも災害への備えになりますね。
【ポイント2】穴あき防止! 鍋底には必ずお皿を敷きましょう
調理する際に、鍋底の熱でポリ袋に穴があかないように鍋にお皿を敷きます。お皿でなくてもザルなどでも大丈夫です。紙皿も使用できますが、紙が水を吸って崩れ、お湯の再利用が難しくなる場合があるので、紙皿を使う時はアルミホイルを巻いて使いましょう。アルミホイルのみだと高温になりすぎてポリ袋が溶ける可能性があります。また、布などの軽いものは加熱時に浮き上がってしまう場合がありますのでおすすめしません。
ポリ袋に穴があき食材が飛び出してしまうと、せっかくの食材やお湯が無駄になってしまう上に、鍋を洗う手間も増えてしまいます。ポイントを押さえることで、鍋のお湯を何度でも繰り返し使うことができます。
【ポイント3】材料は一人分ずつ! 小分けにして調理を
大人数分の調理をする場合は1袋に全量を入れるのではなく、袋の数を増やしましょう。1袋一人分と決めて同じ量の袋を必要なだけ作れば、火の通りが均一になり、仕上がりにムラがありません。
また、料理は何種類でも同じ鍋で作ることができます。それぞれの加熱時間が違う料理を複数同時に調理する場合は、時間差で入れても、時間差で取り出してもOK。すぐに料理を食べられない時は、そのままお湯に入れておけば保温になりますよ。
「お湯ポチャレシピ(R)」の詳しい手順とは?
(今泉さん)この調理方法には、災害時に役立つ工夫とアイデアが詰まっています。湯せんするだけでおいしい料理が出来上がり、しかも洗い物はほとんどなし。水を入れてお皿を敷いた鍋は、ガスコンロの上に置きっぱなしでOK。こんなにシンプルでエコな調理方法はありません。
また、一人分ずつ湯せんするからこその利点もあります。個々の体調に合わせた料理を作れたり、アレルギーを持っている方がいらしても同じ鍋で作れるのがいいところです。
それでは、早速手順を確認してみましょう。
【手順1】材料をポリ袋に入れたら準備OK
ポリ袋に材料を全て入れたら材料を揉みこみ、なるべく空気を抜きながら根元からねじり上げて袋の口に近い部分で結びます。袋を広げて厚みが均等になるように平らにします。加熱すると空気が膨張するので、できるだけ空気を抜いておくのがポイントです。中の空気が膨張して袋が浮いてきてしまうと、加熱がうまくいきません。
【手順2】水を入れた鍋にポチャ。湯せんで調理開始!
鍋に材料の入ったポリ袋を入れると、水かさが増えて鍋から水が溢れることがあるので、水の量は鍋の約1/3~1/2にしておきましょう。全ての袋を入れてから、水の量が少なければ足してください。
鍋底にお皿を敷くのを忘れずに。鍋から袋がはみ出さないように蓋をして、コンロの火をつけます。蓋をすることで熱効率が良くなり早く沸騰します。また、ガスの節約にもなりますよ。
【手順3】出来上がったらそのままお皿に
鍋から袋を取り出して、結び目をほどくか結び目の下をキッチンバサミで切ります。袋のままお皿に広げれば、出来上がりです。調理場と食卓が離れている場合は、結び目をほどかずに衛生的に持ち運ぶこともできますよ。
【手順4】片付け簡単、ゴミも最小限
食事が終わったら、お皿に被せていた袋を捨てるだけで片付け完了。お皿は汚れないのでそのまま再利用できます。湯せんに使ったお湯は繰り返し使用でき、鍋も汚れないので洗う必要がありません。お湯が余れば湯たんぽに入れたり、蒸しタオルに使ってもいいですね。
調理の流れはイメージできましたか?
次は、家族で試したいアイデア満載のレシピをご紹介します。
家族でチャレンジ!「お湯ポチャレシピ(R)」3選
コツと手順が分かったら、どんな料理ができるのか知りたくなりますね。今泉さんにおすすめの料理を選んでいただきました。
(今泉さん)疲れている時こそ炊きたてのごはんが食べたくなりますね。まずはごはんの炊き方から。次に味噌汁やスープなどの汁物を作れるようになるといいですね。温かい汁物があるだけで日常を取り戻せ、ほっとできますよ。心の安定のためにも大切ですね。
パスタは少ない水で簡単に茹でられます。レトルトパスタソースを一緒に湯せんしてパスタにかけるだけでもOK。お子さんの好きなものを備えておくといいですね。
百聞は一見にしかず、作り方は簡単なので一度避難生活をシミュレーションしながら作ってみてください。きっかけづくりに家族で「防災の日」を設定してみてもいいですね。
これさえあれば!「基本のごはん」
食事の基本、ごはんも「お湯ポチャレシピ(R)」で簡単に作ることができます。
1合分を作る場合は、無洗米1合(150g)に水1カップ(200ml)をポリ袋に入れて調理します。全粥2膳分を炊くなら、無洗米1/4カップ(40g)に水1カップ(200ml)の分量です。これがあれば体調の悪い方やご高齢の方にも優しいですね。
乾物を具材に!「さきいかと焼き麩のきんぴら味噌汁」
さきいか、焼き麩、乾燥きんぴらごぼうを入れた具だくさん味噌汁です。災害時に不足しがちなビタミン、ミネラル、食物繊維を取り入れることができますよ。乾燥きんぴらごぼうがない時は、備蓄してある他の乾燥野菜で代用するのもいいですね。
ツナ缶&干しシイタケで旨味たっぷり!「ツナきのこ和風パスタ」
パスタ100gを茹でるために使う水はたった1カップ! 乾燥ほうれん草と干しシイタケが入り、旨味も栄養も満点です。他に、パスタにフリーズドライのコーンスープを入れればカルボナーラ風にも。
他にはどんな料理があるの? もっと知りたい方は
東京ガスでは防災レシピの情報サイト「日々のごはん と もしものごはん」で「お湯ポチャレシピ(R)」を公開しています。今回ご紹介したレシピの他に「カレーもち」や「麻婆高野豆腐」などの試してみたくなるレシピが盛りだくさんです。また、防災についてまとめた冊子「こころとおうちに備えて安心『日々のごはん と もしものごはん』」も無料でダウンロードすることができます。
おわりに
災害はいつどこで起こるか分かりません。もしもの時がいつ来ても柔軟に対応できるように、家族で「防災の日」をつくって、今回ご紹介した調理法を実践してみましょう。家族で学びながら在宅避難を再現してみれば、災害時にも焦らず対応できる防災力が身につきますね。