「もしも」の災害に備えて「日々」を過ごそう
地震や台風、暴風雨などの自然災害が頻発する日本。いつどんな災害に遭遇するか分からない環境の中で、私たちは暮らしています。
もしも、大規模災害が発生すると一時的に電気やガス、水道などのライフラインがストップしてしまう可能性が高くなります。また、災害の影響が長期化するものであれば、物流が滞り食料を始めとした物資が手元に届かないという状況になることも考えられますね。
今や当たり前となってきている「在宅避難」という考え方。避難所という特殊な環境では、精神的なストレスや衛生面、感染症対策への不安などもあると思います。自宅の被害を確認して安全が確保できる場合は、できるだけ自宅で過ごす、在宅避難を選択することが内閣府からも推奨されています。
そんな時に力を発揮するのは日頃からの備えです。災害に強い蓄えをしておくためには普段から防災を意識した暮らし方をしておくことが大切です。
ですが、「具体的に何を揃えればいいの?」「どのくらいの量が必要?」など、不安や疑問は尽きませんね。
しっかりと備えていたつもりでも、「こんなはずじゃなかった」とならないために、実際に災害現場を知る防災のプロ、管理栄養士、防災士、災害食専門員の今泉マユ子さん(以下、今泉さん)に、食料の備蓄と、災害時にも活躍する日用品のアイデアを教えていただきました。
自分や家族を取り巻く環境によって、備え方は十人十色です。自分たちに合った在宅避難のあり方をイメージしながら考えてみましょう。
避難生活を乗り切るために、備えておきたい備蓄食料とは?
地震や台風などの災害はいつ起こるか分かりません。実際に災害が起こると気持ちは焦り、頭の中は混乱状態です。そんな時でも普段から備蓄をしてあることで冷静に対応することができますね。
災害を乗り切るには、「日常 = 防災」を心掛けることが大切です。防災のために特別なものを用意するのではなく、いかに普段使っている物、食べている物を災害時に活用できるかが重要です。
災害が発生した後、必要な物は時間の経過とともに変わっていきますので、発災から3日目、7日目、1週間以降の3つのフェーズ(段階)に分けて考えてみます。災害の規模によっては日常生活が制限されてしまうこともあります。備蓄しておいたものをフェーズに合わせて食べられるものから食べていきましょう。
【フェーズ1】災害発生当日~3日目
発生当日は精神的にも落ち着かないもの。
外では人命救助や消火活動などで大混乱しています。ライフラインがストップし、交通網の寸断により物資が届かず、急いで買いに走っても売り切れになっていることも。停電した時はなるべく冷蔵庫のものを最優先に、次に冷凍庫のものを食べましょう。しかし、自分や家族の健康状態のチェックや、安否確認、場合によっては片付けなどで大忙しです。そんな時に食べ物に時間や手間をかけてはいられないかもしれません。配給が3日以上到着しないことを想定してすぐに食べられるものを準備しておきましょう。
【フェーズ2】災害発生4日目~7日目
少しずつ落ち着きを取り戻してきた頃でしょうか。まだライフラインが復旧しない可能性もあるため、カセットコンロなどの熱源は必需品です。冬の寒い中であればなおさらですね。温かい食べ物があるだけで気力が湧き、ほっとするものです。貴重なガスや水を節約するためにも、温めるだけ、混ぜるだけなどの少ない手間で作れるものがおすすめです。ただし、普段食べ慣れない物を口にすることがストレスになることもあります。なるべく普段の食事に近付けていきましょう。
【フェーズ3】災害発生から約1週間目以降
ライフラインが回復していれば、飲料水と備蓄品で調理ができるようになります。災害時は野菜などの生鮮食品が手に入りにくく、栄養の偏りからの便秘や体調不良が心配です。体調を整えることを意識した食材を準備しておきたいですね。
備蓄食料としておすすめの保存食とは?
スーパーの冷蔵、冷凍コーナー以外にある物は常温保存可能なものです。ほとんどが備蓄できるので、自分の食生活に合わせて、普段から使える物をちょっと多めに買っておきましょう。家にあるもので過ごすことを想定して、日頃から様々な種類をストックしておけば安心ですね。まずは色々な商品を試してみて、自分や家族の好みの味を探しておきましょう。
保存食にはいくつか種類があります。
【主食になるもの】
米、パックごはん、乾麺(パスタなど)、餅、シリアル、レトルトおかゆ、フリーズドライ(パスタ、リゾットなど)、アルファ化米、粉もの(ホットケーキミックス、お好み焼き粉など)
【おかずになるもの(そのまま食べられるもの)】
缶詰(ツナ缶、焼き鳥缶、サバ缶、コンビーフ、コーン、大豆、ひじきなど)
レトルト食品(カレー、パスタソース、スープ、中華丼の具、牛丼など)
瓶詰(ピクルス、鮭フレーク、佃煮など)
【おかずになるもの(水や湯を使うもの)】
フリーズドライ(スープ、味噌汁など)
乾物(高野豆腐、麩、切り干し大根、乾物野菜、乾燥わかめ、乾燥しじみなど)
【おやつになるもの】
ゆであずき缶、フルーツ缶、ドライフルーツ、ナッツ類、飴、羊羹など
【飲み物(水分)になるもの】
水、野菜ジュース、スポーツ飲料、経口補水液、お茶、コーヒー、ゼリー飲料など
その他、カセットコンロとガスボンベ、調味料も備蓄しましょう。
また、高齢者、乳幼児、疾患を持っている方への配慮を忘れずに。子どもは、好きな味ではないと食べてくれないことがあるので、いつも食べているものを準備しましょう。必要な方は、飲み込みやすくするための「とろみ剤」のパックなども備蓄するとよいでしょう。
特に災害時には野菜や果物の摂取が不足しがちです。野菜や果物の備蓄食材を上手に取り入れられるよう工夫してみましょう。
水は、1人1日あたり3リットル×最低3日分、できれば1週間分目安に備蓄するとよいでしょう。
また、下の章でも触れる、食べながら備える「ローリングストック」を意識して、日常生活の中に取り入れられることから実践し少しずつ備えていきましょう。選ぶ際には賞味期限、常温保存できるか、缶切りなどの道具を必要としないかもチェックしておくよいでしょう。まずは、キッチンのストックを見直してみることから始めてみませんか。
心と体を健康に! 災害時でもできる備蓄食料を活用した調理法とは?
栄養バランスが崩れやすい避難生活では、体の健康を保つことも重要になってきます。ライフラインがストップした時でも、温かい料理や栄養バランスのいい料理を作ることができるのが理想ですよね。
おすすめしているのは、以下のレシピです。どれも簡単に取り入れられるものなので、一度試しておくと災害時でも慌てずに調理することができますよ。
(1)ポリ袋で作る「お湯ポチャレシピ(R)」
耐熱用ポリ袋を使って湯せん調理で作るのが「お湯ポチャレシピ(R)」です。パッククッキングとも呼ばれています。材料を入れたポリ袋をお湯の中にポチャッと入れて加熱するだけで、ご飯やおかずまで様々なバリエーションの料理が作れます。ライフラインが止まってしまっても、カセットコンロと水と鍋があれば調理可能です。
災害時に適した調理方法で、メリットは、なんといっても災害時に温かいものが食べられること。どんな時でも温かいものが生きる気力になります。鍋の中の水が汚れず繰り返しお水を使うことができるので、災害時に貴重となってくる水の節約になりますし、後片付けも簡単です。また、1つの鍋で複数の料理を同時に調理できるので、例えばご飯、おかゆ、おかずを一緒に作ったり、アレルギーへの対応も可能です。
また、炊き出しなど大人数の料理にも力を発揮します。1人前ずつ袋に入れて調理すれば、出来上がった料理は袋のまま配布できます。袋を皿の上で開いて食べれば皿が汚れませんし、最後は袋を捨てるだけなので、配膳や片付けがスムーズになります。
(2)即作れて、即食べられる「即食レシピ(R)」
火も水も包丁も使わず、ポリ袋に材料を入れて混ぜるだけでできるのが「即食(そくしょく)レシピ(R)」です。日頃ストックしている缶詰や乾物、野菜などの食材で誰でも短時間に、手間なく調理することができます。食材をポリ袋に入れるだけなので、直接食材に手が触れることなく衛生的です。
消費しながら備蓄する「ローリングストック」
ローリングストックとは普段から保存の効く食材を少し多めに購入して、定期的に日常生活の中で消費していき、食べた分を買い足し、また備えるを繰り返す備蓄方法です。備蓄食料を回転(ローリング)させれば、消費期限切れで廃棄することもなく食品ロスも防げます。
また、保存期間がそれほど長くなくても良く、幅広い選択肢があるのが「ローリングストック」のメリットです。いろいろな食品を選べるので、自分が作り慣れたものや食べ慣れたものをストックしつつ、消費期限切れを防ぐことができます。いざという時にどこに保管しているかも忘れることはありません。
心身ともにストレスを受ける災害時こそ、日常生活に近い食事ができることが重要です。レトルト食品やフリーズドライ食品なども備蓄に向いているので、備蓄品だからと構えずに好みのものを選びましょう。
さらに、普段から少しでも食べ慣れておくことも大切です。いくつか試してみて、お気に入りのレトルト食品や缶詰などを見つけて備蓄品に加えていってくださいね。ローリングストックを活用したレシピで、おいしく備えていきましょう。
ご紹介した「お湯ポチャレシピ(R)」や「即食レシピ(R)」は、災害が起きた時だけに作る特別なものではありません。日常食生活の中で備蓄食料を活用しながらいつもの食事に取り入れれば、時短家事になる上に、もしもの時の練習にもなります。ぜひ、いつもの食生活に取り入れてみてくださいね。
東京ガスでは防災レシピの情報サイト「日々のごはん と もしものごはん」では備蓄品をアレンジしたアイデアいっぱいのレシピをご紹介しています。また、もしもの時の対処方法や便利グッズなどをまとめた冊子「こころとおうちに備えて安心『日々のごはん と もしものごはん』」も無料でダウンロードすることができます。
工夫で乗り切る! 災害時の調理や食事に役立つ日用品アイデア
防災グッズがなくても、身の回りにある日用品がいざという時に活躍します。身近にあるもので対応する応用力とアイデアも今泉さんに伺いました。
ご紹介するものは、ほとんどのご家庭にあるものばかりだと思います。いざという時にすぐに用意できるように、家のどこに保管してあるのか家族と情報を共有しておきましょう。
日用品でもローリングストックの考え方は同じです。日頃から使いながらストックしていきましょう。
古布・新聞紙
調理済みの道具や器の汚れを拭き取ったり、不要になった油の処理にも便利です。火からおろしたばかりの鍋を隙間なく包めば、熱を効率よく利用した余熱調理が可能になります。
新聞紙は折りたためば簡易食器にも、防臭効果があるので生ごみ用のゴミ袋にも変身します。
ポリ袋、レジ袋
食材を混ぜる、漬ける、下味をつけるなど簡単な調理に活用できます。また、使い捨て手袋の代用にも。調理や食器の片付け、掃除に都度、使い捨てれば衛生的で感染症の予防になります。半透明の高密度ポリエチレン製のポリ袋か、湯煎で調理可と表記があるものなら「お湯ポチャレシピ(R)」でも使用可能です。出来上がった料理をそのままお皿に被せれば、お皿が汚れません。
ラップ、アルミホイル
断水時には洗い物ができません。ラップを敷けばお皿や紙皿が汚れることがないので何度でも使うことができます。ラップは細く伸ばせば紐代わりになりますし、アルミホイルは鍋のフタや、丸めてタワシにしても便利です。
他にも、紙皿やキッチンバサミも便利です。紙皿はまな板の代わりになります。逆に、キッチンバサミを包丁の代わりにすればまな板を使わずに調理ができます。ただし、キッチンバサミは衛生面を意識して食品用とその他用と使い分けましょう。
おわりに
実際に自分が被災した時のシミュレーション・準備をしておくことは大切ですね。災害時、きちんとバランスのとれた温かい食事の提供ができれば、自分の家族を守ることもできます。日々の心がけひとつで、いざという時に対応できる備蓄のコツや調理法を知っておくと安心ですね。
※「お湯ポチャレシピ(R)」「即食レシピ(R)」は株式会社オフィスRMの登録商標です。