なぜ起こる? 熱中症のメカニズムと症状
命を脅かすこともある熱中症。熱中症はなぜ起こるのでしょうか。
人の体の中ではいつも熱がつくられており(産熱)、この熱を外に逃がすことで(放熱)、体温が36~37℃前後に保たれています。しかし、運動などで体内にたくさんの熱がつくられたり、強い日差しや暑い室内で周囲の温度が上がったりするとで体温のバランスが崩れると、急激に体温も上がってしまいます。
この時、体温のバランスを保つために、皮膚の血管が拡張したり、汗をかくことによって体温を下げようとしますが、これらの体温調節がうまくいかなくなると熱中症が起こってしまいます。
熱中症の症状は主に以下の4つがあります。
熱中症の症状1【熱失神】
皮膚の血管の拡張と脚部に血液が留まることで、血圧が低下し、脳血流が減少して起こります。
・めまい
・一時的な失神
・顔面蒼白
・脈は速くて弱くなる
熱中症の症状2【熱けいれん】
大量に汗をかき、水だけを補給して血液中の塩分(ナトリウム)濃度が低下した時に、足、腕、腹部の筋肉に痛みを伴ったけいれんが起こります。
・筋肉痛
・手足がつる
・筋肉がけいれんする
熱中症の症状3【熱疲労】
大量の発汗と皮膚の血管が拡張することによって、循環がうまくいかなくなり、下記の症状が出ます。
・全身倦怠感
・悪心
・嘔吐
・頭痛
・集中力や判断力の低下
熱中症の症状4【熱射病】
過度に体温が上昇(40℃以上)して脳機能に異常をきたした状態です。体温調節も働かなくなります。意識障害(応答が鈍い、言動がおかしい、意識がない)がみられ、進行すると昏睡状態になります。死の危険のある緊急事態です。
・体温が高い
・意識障害
・呼び掛けや刺激への反応が鈍い
・言動が不自然
・ふらつく
熱中症になる人の約6割は高齢者
熱中症というと、炎天下でスポーツをしている若い人などを想像します。しかし、令和2年の東京消防庁のデータによると、熱中症による救急搬送が最も多いのは65歳以上の高齢者。全体の約6割を占めています。
令和2年、熱中症で救急搬送された65歳以上の高齢者のうち、5割以上は「中等症以上」の危険な状態でした。高齢者の熱中症は重篤化しやすいので注意が必要です。
参考:東京消防庁「令和2年の熱中症による救急搬送状況の概要」(令和2年6月~9月)
高齢者が熱中症になりやすい理由
熱中症になりやすいのには、さまざまな理由があります。
●理由1:体内の水分が不足しがち
高齢者は体内の水分量が少ないため、体温調節に必要な発汗量や皮膚血流量が減ってしまいます。
●理由2:暑さに対する感覚機能が低下している
加齢によって暑さに対する感覚が鈍くなっているため、暑さを避ける行動を取りにくくなります。
●理由3:暑さに対する体の調節機能が低下している
高齢者は、喉の渇きを感じにくいため、脱水に見合った十分な水分を補給できないことがあります。また、腎機能が低下することで、体から多くの水分を失います。
熱中症につながる条件がいくつも重なっているため、高齢者はより注意が必要なのですね。
【熱中症予防の基礎知識1】熱中症の4割は家の中で起こる
救急要請の発生場所で最も多いのは、家の中。全体の4割以上(※)を占めています。たとえ日が当たっていなくても、家の中で熱気や湿気がこもりやすいところは要注意です。
また、室内で過ごしていると、気付かないうちに脱水していることもあります。屋外にいる時のように汗を大量にかいていなくても、こまめな水分補給が必要です。
家の中で熱中症リスクが高い場所とは
家の中で特に熱中症に注意したい場所は、以下の3カ所です。
●室内で熱中症が起こりやすい場所1:お風呂場、脱衣所、洗面所
お風呂場、洗面所は、洗濯機・乾燥機の熱や湿気がこもりやすい場所。特にお風呂あがりは、水分を失っているため熱中症のリスクも上がります。長時間過ごす場合は注意しましょう。
●室内で熱中症が起こりやすい場所2:家の中の最上階
家の2階(最上階)は昼間に上がった温かい空気や湿気がこもっています。2階などの部屋で過ごす際は、窓を開ける、冷房をつけるなどして環境を整えるのを忘れずに。
●室内で熱中症が起こりやすい場所3:寝室
人間は発汗以外にも、皮膚や呼気から自然に水分を失っています。また寝ている間には一晩でコップ一杯分もの水分も身体から失われていきます。夜間はエアコンを消すご家庭も多いですが、気温と湿度が高い夜はエアコンを使わないと熱中症のリスクが上がります。
【熱中症予防の基礎知識2】夜でも熱中症になる
熱中症のピークは気温が高くなりはじめる昼の12時台。ただし、約1割の人は、夜に救急搬送されています(※)。
※出典:東京消防庁「令和2年の熱中症による救急搬送状況の概要」(令和2年6月~9月)
夜間に熱中症が起こる原因
夜間の熱中症の原因は、部屋の気温が高すぎること。日中の強い日差しで、建物の建材は温められています。ベランダや壁に蓄えられた熱が、徐々に室内に伝わってくると、夜間でも気温が下がらず熱中症につながることもあります。
対処法は、エアコンを積極的に使うこと。夜にエアコンを使うと電気代がもったいないからという理由で、使用を避けるのはやめましょう。また、防犯のために窓を開けない、そもそも寝室にエアコンがないなどの場合も注意が必要です。
ここまで熱中症予防のために知っておきたい基礎知識をご紹介しました。次に具体的な対策も確認しておきましょう。
【高齢者の熱中症対策1】日ごろから水分を取る。寝る前もしっかり水分を
就寝中に失われる水分は、一晩でコップ一杯分にもなります。寝る前の水分補給はしっかりと行いましょう。
室内でも気づかない内に水分を失っています。より体に水分をキープできる電解質を含む飲料をこまめに飲むことをおすすめします。
汗には塩分(ナトリウム)などの電解質(イオン)が多く含まれています。水だけの補給でも熱中症の予防にはつながらないため、0.1%~0.2%の食塩水やイオン飲料、経口補水液を、時間や量を決めて習慣的に取るのがおすすめです。
【高齢者の熱中症対策2】エアコンを使う
エアコンの不使用は、命の危険にもつながります。
23区内で熱中症によって死亡した200人のうち187人、つまり約9割は、屋内で死亡しています。そして、屋内で死亡した人の9割はエアコンを使っていなかった、ということが、東京都監察医務院の調査で明らかになりました。
しかも死者の最多を占めていたのは、エアコンが「ある」にも関わらず「使っていなかった」という人。
エアコンを使わなかった理由はさまざまに考えられますが、救えたはずの命が失われてしまうのはとても悲しいことです。暑い日には積極的にエアコンを使って、室内の環境を整えたいものですね。
【高齢者の熱中症対策3】見守りサービスを活用する
認知機能が低下してくると、暑さを正確に感じられなくなることがあります。「このくらいなら暑くない」と感じても、体感以上に室温や湿度が上がっていて、気が付いたら脱水症状を起こしてしまう・・・という可能性もないとはいえません。
独居住まいの高齢者や、高齢者夫婦の世帯では、自分たちだけの感覚に頼らず、見守りサービスを活用してはいかがでしょうか。
おわりに
地球温暖化による気候変動や、マスクをする新しい生活様式などから、熱中症で救急搬送される人は年々増加する傾向にあります。水分補給とエアコンの使用を心掛けるとともに、離れて暮らすご家族をそっと見守ることができるサービスなどを活用して、大切な命を守りたいものですね。
参考:大塚製薬株式会社「熱中症からカラダを守ろう」
参考:環境省熱中症予防情報サイト