ひらがなの読み書きは何歳から始めるのが正解?
では、何歳から読み・書きの練習を始めると良いのでしょう? 学びどきを見極めるサインなどはあるのでしょうか?
これについて、立石美津子さんは、こう言います。
立石さん「まずは、”何歳から始めるべきか?”という考え方をやめましょう(笑)。
読み書きの獲得は子どもによってそれぞれなので、”さあ、4歳になったからひらがなを書く練習をしましょう!”とやってしまうと、かえって、文字を書くのを嫌なことと感じるようになるかもしれません」
文字に興味を持たないうちから無理をして始める必要はない、と、立石さん。
立石さん「読むことは、赤ちゃん時代からやっています。絵本や図鑑、ファミレスでメニューを見るなど外に出るだけで、周囲は文字であふれかえっていますから、子どもはかなり小さいうちから、絵のように形として文字をとらえています。ですから、ごく普通に日常生活をしていると、自然に”これ、なんて読むの?”と聞いてくるようになります。それが何歳ごろなのかは、その子の発達によります」
〇歳だから〇〇をすべき、という意識を変えることが、親にはまず求められているようです。
小学校入学までにはマスターしたい、ひらがなの「読み書き」
小学校入学前にひらがなを読める子は、いまや90%超※。自分の名前をひらがなで書ける子は、年少児で男児31.8%・女児59.6%なのに対し、年長児になると男児96.5%、女児98.8%とほぼ100%に達します。
立石さん「義務教育は小学校からですので、ひらがなは小学校で教えることになっています。そして、4月中にひらがな46 文字の読み書きができるようにするという目安が担任には課されています。入学式が4月10日だとすると、国語や書写の時間に何文字も教えなくてはならない事態に陥ります。でも、上記のようにクラスの中で大勢の児童が出来ているので、この恐ろしく早いぺースでの授業を進めることができます。
もし、我が子が全くひらがなの読み書きが出来ない状態で入学してしまうと、困ることになります。授業の進め方が早いだけでなく、例えば、お友達のお名前が読めずに持ち物が判別できないですし、入学してしばらくすると、持ち物や宿題を連絡帳に書いて帰ってくるようになります。
また、周りのお友達が普通にできていることが自分はできないと感じると、自信や意欲を失ってしまうことにもつながりかねません。小学校入学までには基本的な読み書きができるといいですね」
※出典:「幼児教育、幼小接続に関する現状について」(文部科学/平成27年4月)
【ひらがなの教え方のコツ】文字単体ではなく言葉で教える
立石さんによると、文字に興味を持たせるには文字を一文字ずつバラバラに教えるのではなく「言葉」として触れさせるのがポイントだそう。
立石さん「『あ』という文字を教えるときは『あり』『あめ』など、言葉を添えて教えましょう。意味のある言葉でないと、子どもはなかなか覚えにくいのです」
就学前になっても、子どもが文字にあまり興味を持たない場合、親の方できっかけ作りをしてあげるのも良いでしょう。例えば、以下の方法が挙げられます。
絵本を使う
楽しくひらがなに触れることができる「あいうえお」の絵本には、子どもに興味を持たせる工夫を凝らしたものがたくさんあります。その子が好きな恐竜や電車など、好きなモチーフの絵本を選ぶのも良いですね。
ひらがなポスターをリビングやお風呂に貼る
お風呂場にひらがなポスターを貼って、「『いちご』の『い』はど〜れだ」などとクイズを出し合って遊ぶ方法もあります。100円ショップなどでも取り扱いがあるので、気軽に試せますね。
ひらがなの学習用のカードゲームや知育玩具で遊ぶ
読み札を読み上げてその文字のカードを探す、定番のカルタに加え、文字の付いた積み木やタブレットなどもあります。家族で取り組んでみるのも楽しいですね。
ひらがなを書くのは読めるようになってから
立石さんによると、ひらがなを「書く」のは、「読む」ができるようになってから。
立石さん「書くことは、手先の神経の発達や筋肉が出来上がってこないと難しいものです。ですから、2歳や3歳から書く練習をさせる必要はまったくありません。私は保育園や幼稚園では年中さんくらいから書くことを少しずつ始めますが、”字を書いてみたい!”と子どもが言い始めたら、そのときからのスタートでよいと思います」
【ひらがな学習がうまくいくコツ1】ポジティブな声掛けをする
違うでしょ、そうじゃない、やり直し・・・。ひらがなを教えているとついつい言ってしまいがちですが、ネガティブな言葉を使わずに声掛けはできるのでしょうか?
立石さん「もちろんできます! こういう風に書くとかっこいいよ、とか、そういう風に持つとお姉さんっぽいね、とか。”こうするとステキ”という言い方に変えてみましょう。
【ひらがな学習がうまくいくコツ2】頑張りを可視化してあげる
”ひらがなの練習をしたら、おやつにしよう”など、ご褒美でやる気を湧かせる方法はどうでしょうか?
立石さん「ご褒美をあげるとしたら、シールなど”頑張りが目に見えやすいもの”がいいですね。おやつだと、食べたらなくなっちゃいますからね(笑)。努力を可視化する、頑張ってきた努力の跡が見える形にしてあげるといいですよ。ただし、“練習したら玩具を買ってあげる”などご褒美が豪華になりすぎないようにしましょう。どうしてかと言うと、『練習が楽しい、文字を書くことは楽しい』という体験をさせたいためのご褒美なのですが、高価になり過ぎるとご褒美目当てにしか取り組まなくなってしまうからです。それから、”ひらがなの練習をしないと、おやつをあげないよ”と、罰のように使うのは絶対にやめましょう」
【ひらがな学習がうまくいくコツ3】楽しくなれるモチーフを使う
大人でも間違った筆順で覚えていることが多い「も」という文字。正しくは、「し」のようなクルンとした部分から書きます。
筆順を教える際、立石さんは「尻もちドーン! でも、両手2本で支えるよ」と教えているそうです。
立石さん「1→ 2→ と数字で教えても、子どもはなかなか覚えません。イメージしやすく、子どもが楽しい気持ちになれる言葉を添えてあげましょう」
好きな文字は「ん」、その理由は・・・?
立石さんに聞いたところ、立石さんの指導を受けている子どもたちの大好きな文字は「ん」。その理由は、彼らが大好きな「うんち」の「ん」だから、だそう。
立石さん「ひらがなの練習は、楽しいこととセットにしてあげるのがポイントですね。最近は幼稚園や保育園でひらがなの練習をしていますが、先生方は子どもの喜ぶツボをよく心得ています。ポジティブな声掛けや楽しく筆順を教えるのに自信がない、という人は、自分でやらなくちゃ! と気負わずに、プロにお任せしてしまうのも一つの手ですよ」
立石さんの近著『動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな』(小学館クリエイティブ単行本)などで、YouTube動画を使いながら楽しくひらがなを学ぶのも◎。
こちらでは、13文字の動画が無料公開されています。ドリルを購入する前に、子も親も楽しみながらひらがな練習をするコツをチェックしてみませんか?
ひらがなの教え方で気を付けたい、4つのNG行動
ひらがなを書く練習をするにあたり、子どもは何を困難に感じ、どんなところにつまづくのでしょう?
立石さん「大前提として、子どもが感じる”困難”は、全て大人がつくっているということを念頭に置いておきましょう。
子どもが、「ママの顔、描いた」とお化けのような顔を描いても、叱り飛ばす親はいないと思います。ところが、文字になったとたん「ここは突き出してはダメよ!」などダメ出しをしてしまいます。
子どもが描く絵には、ああだこうだと言わないですよね。色がすてきとか、大胆でいいとか、枠の中に書けているなど、良いところを探して褒めるでしょう?
ひらがなを書くときも、絵を見るのと同じ気持ちで臨むといいですよ。ひらがなを書くとなると、親の方がとたんに”さあ、お勉強です!”という姿勢になって、注意や指導をしてしまいがち。これは絶対に、やめましょう。子どもが”難しい”とか”苦手だな”と感じることの多くは、親や大人が注意をすることによってつくられていきますから」
思わずドキッとするご指摘ですが、このことを念頭に置いて、ひらがなを教える際にやりがちなNG行動をチェックしてみましょう。
【NG行動1】ダメ出しをする
子どもが書いた文字を、添削しすぎて真っ赤にしてしまう・・・。真剣に向き合う人ほどやってしまいがちで、学校の先生にもいますよね。ですが、これはひらがなを教えるときにもっとも避けたいこと、と立石さんは言います。
立石さん「添削は止めましょう。子どもは注意をされたりダメ出しをされたりし過ぎると、学習意欲をなくしてしまいます。”よくできた文字”だけにハナマルを付けてあげるといいですよ。そうすればもっと花丸をもらおうと自然に良い字を目指すようになります」
【NG行動2】ずれが目立つお手本を使う
お手本をなぞるのは、字を書く練習としてはいい方法。ただし、くっきりとした点線や色線などを使ったお手本は、かえって「ずれ」が目立ってしまい、子どもの意欲を削いでしまうのだそう。
立石さん「お手本をはみ出さずにトレースするのは、大人でも難しいですよね。線のずれが目立つと、きれいにできなかった・・・と、子どもの中にネガティブな気持ちが生まれてしまいます。もしなぞらせるときは、ごく薄い線のドリルを使いましょう」
【NG行動3】消しゴムで消してしまう
字が枠をはみ出したり、形が曲がってしまったり、間違った字を書いたりしたときに、消しゴムで消させていませんか?
立石さん「消すという行為は、子どもの心を否定するような行為です。もし間違ったら、隣や別の紙に書き直せばいいんです。そうすれば、”こっちより上手に書けたね!”と褒めてあげることもできるし、子ども自身も、努力の跡や進歩が目に見えやすいです」
年齢が小さいと、消しゴムで消す力が足りなかったり、力加減が分からず紙がよれてしまったり、消しゴムが折れてしまうこともあります。消すという行為は、意欲だけでなく集中力を途切れさせることにもつながるそうです。
【NG行動4】ノルマや時間を決める
「1日に〇文字書く」など決めごとをつくってしまうと、子どもの心に嫌な印象を残してしまいます。
立石さん「例えば、同じ文字を100字書いたら、うまく書けるようになるでしょうか? 文字を乱暴に書くようになったり、飽きて嫌になったりするだけです。子どもの集中力は、大人が思っている以上に長く続きません。私が保育園でひらがなの指導をするときは、年長さんでも7分くらいしか”書く”ことはやりません」
ほんの数分でも、できるだけ毎日やることは、学習を定着させる効果があります。ただし「毎日〇時から」など時間を決めてしまうのはNG。子どもが遊びに集中しているのを遮ってまで、ひらがなの練習を行うのは逆効果なのだそうです。
立石さん「子どもにしたら、”せっかく遊んでいたのに・・・。字の練習なんてキライ!”と、ネガティブな気持ちになってしまいます。
ひらがなの教え方で気をつけたい2つのポイント
■鉛筆の持ち方
立石さん「文字は練習していくうちに誰でもうまくなっていくものですが、残念ながら鉛筆やお箸の持ち方は、最初に悪い持ち方を身に付けてしまうと一生ものになってしまい、なかなか治りません。親指、人差し指、中指でしっかり支える正しい持ち方をしているかどうか、きちんと見てあげましょう」
■筆順
筆順を正しくすることによって、形が美しく整います。
立石さん「大人でも『も』の筆順を間違っている人がいます。書き順には意味があって、正しい筆順で書くと、手の動きが最短距離になります。結果、ムダな動きがなく、きれいに書けます。間違って覚えてしまうと、なかなか矯正しにくいので、最初が肝心なんですよ」
おわりに
「子どもの苦手は親がつくる」という立石さんの言葉に、思わずドキッとすることがたくさん。「きちんと教えねば」「きちんとやらせなくては」という気負いは、子どもも親もハッピーにならないですよね。親子で楽しみながらひらがなを練習できるといいですね。