無水調理ってどんな調理法?
素材本来の旨味を閉じ込めて、食材の栄養を逃すことなくとれると話題の無水調理。気になっている方も多いのではないでしょうか?
1939年創業のアメリカの老舗調理器具ブランド、ビタクラフトの後藤麻里さんに、無水調理の魅力と無水調理ならではのレシピをご紹介いただきました。
まずは、基本となる無水調理について教えていただきました。
後藤さん「無水調理とは、最低限の水分だけで料理する調理法です。ふたと鍋の隙間をしっかりと塞ぐことで密閉し、水蒸気の膜(ベイパーシール(R))を形成します。
ビタクラフトの無水調理鍋では、鍋を密閉することで鍋内が定温・定圧になり、調理に最も適した状態を作りだします。 この原理によって、大量のお湯を沸かして野菜をゆでたり、水を加えて煮込んだりしなくても、食材に含まれる水分を生かして調理ができるのです」
圧力鍋と無水調理鍋の違い
お鍋を選ぶ時によく比較されることが多い、圧力鍋と無水調理鍋ですが、その違いはどういったところにあるのでしょうか。
後藤さんによると、圧力鍋と無水調理鍋の最大の違いは、調理の温度帯なのだそう。
圧力鍋は基本的に水分を加え、圧力をかけて高温調理ができる調理器具ですが、一方の無水調理鍋はふたの重みや蒸気の膜を利用して鍋を密閉し、食材のもつ水分で調理する調理器具です。
ですので、無水料理では、原則中火〜弱火でしっかりと密閉し、短時間で素早く加熱調理を行うため、熱に弱い栄養素も壊さずにとることができるというのがメリットです。
他にも、無水調理鍋は、普段使いできるという「手軽さ」もあります。細かい部品を洗ったり、特別なお手入れをしたりする必要はありません。
圧力鍋にも、「時短調理ができる」「かたい肉や根菜もやわらかく仕上がる」などのメリットがたくさんあります。圧力鍋について、詳しくはこちらの記事をチェックしてみてください。
無水調理の3大メリット
余分な水分を使わない無水調理には、どんなメリットがあるのでしょうか。代表的な3つのメリットを後藤さんに教えていただきました。
メリット1. 食材の旨味が凝縮される
余分な水分を加えないため素材の味が薄まらず、素材本来の旨味がギュッと凝縮され、おいしさが格段にアップします。また、調味料の味が染み込みすぎて、素材の味が失われることも避けられます。
メリット2. 栄養を逃さない
ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2などの水溶性ビタミンは、水分を加える調理では溶け出してしまうことがありますが、無水調理でゆでた野菜は、上の表の通り、栄養素の流出を最小限に抑えられ、調理後もその8~9割をキープできます。なお、この高い栄養素残存率は、ビタクラフトさんの無水調理鍋ならではの密閉性・保温性によるもの。無駄のない構造でしっかりとふたをすることで、食材に素早く熱が通り、栄養素を閉じ込めることができるのです。
メリット3. 時短調理&光熱費の節約ができる
無水調理鍋は密閉性や保温性に優れているため、食材に熱が通りやすく、時短調理が可能。これは光熱費の節約につながります。例えば野菜をゆでる時も、お湯を沸かすための時間やガス代が節約できます。
無水調理に使う鍋の選び方
無水調理には密閉性や熱効率が重要なため、一般的な鍋やフライパンではなく無水調理鍋を使うのがおすすめです。無水調理鍋といっても、軽量でお手入れしやすいステンレスやアルミの他、保温性に優れた鋳物、土鍋などの素材もさまざまで、サイズや形状も多種多様。そこで、選ぶ時に重視したいポイントを後藤さんに教えていただきました。
チェックポイント1. 対応熱源
「主にガスタイプ、IHタイプ、オール熱源対応のものなどがあります。お家のコンロの熱源に合わせて購入しましょう。IHコンロの場合は、天板の下に入ったコイルサイズが12cm程度で、それより直径の短い鍋は反応しないため、サイズのチェックも必須です。オール熱源対応のものは、今後引っ越しの予定がある方や、自宅はIHだけどアウトドアでも使いたいなど、さまざまなシーンで使いたい方におすすめです」(後藤さん)
チェックポイント2. サイズ
「無水調理鍋のサイズは、作りたい料理の種類や料理の量に合わせて選ぶのがおすすめ。例えば直径14cmの片手鍋だと、ゆでる以外にも、お弁当に入れる小さなオムレツのような焼き物を作ることもできますし、直径20cmのお鍋であればご飯を炊いたり、野菜をたくさんゆでる用途に向いています」(後藤さん)
4人家族の場合、後藤さんおすすめのサイズは直径20cmの両手鍋。
「煮る、炊く、焼くもできる、マルチな形です。食材を入れやすく、炒めやすいサイズです」(後藤さん)
チェックポイント3. 熱効率
素早く均一に食材に熱を通すためには、熱効率のよさも重要です。素材や鍋の構造から、比較・検討してみましょう。一般的には、多層構造の鍋は熱効率が良いといわれています。
「例えばビタクラフトの鍋は、ステンレスとアルミニウムの異なる金属板を何層にも重ねた多層構造。アルミニウムの熱吸収性とステンレスの保温性、両方の長所を活かした構造です。底面だけではなく全面多層構造になっているため、側面にも効率よく熱が伝わります」(後藤さん)
無水調理の注意点
利点の多い無水調理ですが、注意点もあります。
熱伝導が良い無水調理鍋で調理をする際は、火加減に注意が必要です。火力が強すぎると、焦げつきや鍋の破損につながることもあります。
「無水調理鍋を使う場合は、基本的に強火は必要ありません。中火~弱火で調理できます。調理開始時や鍋を予熱するときには中火、その後は調理に応じて中火~弱火の間で火力を調節してください」(後藤さん)
【無水調理にトライ1】かための野菜をゆでる
それでは、無水調理にトライしてみましょう。普段はブロッコリーなどのかための野菜は、たっぷりのお湯を沸かしてゆでることが多いと思いますが、無水調理ではどのようにゆでるのでしょうか。後藤さんに教えていただきました。
材料
・カブ・・・適量
・ブロッコリー・・・適量
・紫玉ねぎ・・・適量
作り方
1. カブはくし形切りに、ブロッコリーは1房ずつ切り、紫玉ねぎは薄切りにする。
◎ポイント:数種類の野菜を一緒にゆでる場合、火が通りづらいものは、小さく切りましょう。大きさを調整して、ゆで時間を一緒にするのがポイント。
2. 野菜を鍋に入れ、大さじ2杯の水を加える。ふたをして中火にかける。
3. ふたがカタカタして、蒸気が鍋からポツポツと漏れてきたら、ふたをクルクルと回す。
◎ポイント:ふたを回すことで、水蒸気の膜を満遍なく全体に広げます。
4. 弱火にして約3分ゆでる。
◎ポイント:弱火の目安は、ふたがカタカタせず、静かになる状態。
出来上がりはこの通り。ふたを開けた瞬間に野菜の香りが広がります。色鮮やかに仕上がって、このまま食卓に出せそうな一品です。
「今回使用した野菜以外にも、お好みの野菜でアレンジしてみてください。エビやアサリを加えれば簡単にメインのおかずになりますよ」(後藤さん)
【無水調理にトライ2】葉物野菜をゆでる
次は葉物野菜のゆで方を教えていただきました。今回使用するのはほうれん草です。こちらもたっぷりのお湯を沸かしてゆでるというのが一般的ですよね。でも今回使用する水分は、なんとほうれん草を洗ったときに付いた水滴だけ。短時間で色も鮮やかにゆで上がります。
重要なポイントは、手順2にある「沸騰のタイミング」。
「沸騰すると蒸気が漏れ出てきます。この蒸気を見落とさないように注意してください。初めて調理される方や心配な方は、鍋にスプーン1杯の水を入れるのがおすすめ。沸騰のタイミングが分かりやすくなります」(後藤さん)
材料
・ほうれん草・・・1束
作り方
1. ほうれん草を水で洗い、鍋に根の部分と葉の部分が互い違いになるように並べる。ふたをして中火にかける。
2. 沸騰して鍋のふたがカタカタ鳴り、蒸気がポツポツと漏れてきたら、ふたをクルクルと回す。
◎ポイント:ふたを回すことで、水蒸気の膜を満遍なく全体に広げます。
3. 弱火にして30秒~1分程度加熱する。
◎ポイント:弱火の目安は、ふたがカタカタせず、静かになる状態。
洗ったときに付いた水分だけで、ゆでたほうれん草の完成!
ふたを開けた瞬間にほうれん草の甘い香りと鮮やかな色が広がります。ほうれん草のお浸しを作る場合も、無水調理なら大量のお湯を沸かす必要もないのでとても簡単ですね。
ほうれん草の量が多かったり、「まだ少し堅いな」と感じる場合は、火を止めてふたをして保温状態にし、お好みの仕上がりにしてください。
【無水調理にトライ3】無水&無油で調理できる! ヘルシー肉じゃが
後藤さんに、無水調理で簡単にできる肉じゃがレシピも教えていただきました。おなじみの肉じゃがも、無水調理で作るとひと味違う仕上がりに。にんじんやじゃがいもなど素材の旨味が、びっくりするほど凝縮されています。
「ぐつぐつ沸騰させないので、鍋肌に肉のアクもつきません。野菜の角も煮崩れすることなく、きれいに仕上がります」(後藤さん)
さらにこの肉じゃがは、油を使わないヘルシーな無油調理。素材に含まれる油だけで調理するので、カロリーやコレステロールを気にする方にもおすすめです。
材料
・じゃがいも・・・4コ
・玉ねぎ・・・1コ
・にんじん・・・1コ
・牛肉(薄切り)・・・200g
※食べやすい大きさに切っておく
[A]※合わせておく
・しょうゆ・・・大さじ3
・砂糖・・・大さじ2
・酒・・・大さじ2
・みりん・・・大さじ2
作り方
1.鍋を中火にかけ予熱する。水滴をたらし、コロコロと転がる状態になったら鍋が温まったサイン。
2.鍋が温まったら牛肉を入れてふたをし弱火にして2分~3分ほど置く。その後、牛肉をほぐし軽く炒める。
◎ポイント:肉を鍋に入れた直後は、鍋にくっつきますが、無理に引き剥がしたり、動かそうとしたりしないでください。2分~3分ほど置いてから開けると、鍋全体に水滴がくっつくのでその水分を利用して牛肉がするっととれます。食材に水分があるうちは焦げつかないので、あせらず調理しましょう。
3.火を弱火にして野菜と調味料を加え、全体を混ぜ合わせる。
4.ふたをして火を中火に戻し、沸騰させる。
ふたがカタカタして蒸気がポツポツと漏れてきたら、調味料が全体に回るように上下を返す。
もう一度ふたをし弱火にして15分ほど煮込む。
◎ポイント:汁だくにしたいときは煮込み時間は15分ほどに、ホクホクな仕上がりにしたいときは20分ほど煮込んでください。ガスコンロの便利機能、コンロ調理タイマーを活用すると便利ですね。
こちらが出来上がりです。画面からもじゃがいものホクホク感が伝わりますよね。しかもしっかり中まで味がしみています。
無水調理鍋は驚くほど多彩な料理が作れる!
無水調理鍋では、上記のようなレシピのほか、焼き芋やケーキ、パンも作れ、ごはんを炊くこともできます。
おなじみのレシピから、オーブンがないからと諦めがちなレシピまで、さまざまな料理にチャレンジできるのも無水調理鍋の魅力です。
無水調理鍋で作るゆで卵
無水調理鍋で作れる意外な料理のひとつがゆで卵です。
「無水調理で作ったゆで卵は、白身のしっとり感が違います。また、立ててゆでることで、黄身の位置も中心にすることができますよ」(後藤さん)
作り方
1. 水をたっぷり含ませたキッチンペーパーで輪をつくり、鍋に並べる。輪を台に卵のとがった方を下にして立ててふたをし、中火にかける。
2. ふたがカタカタして蒸気がポツポツと漏れてきたら、弱火に落として8分加熱する。
※加熱時間8分で、ややかために仕上がります。加熱時間はお好みのかたさに合わせて調節してください。
3. ゆで上がったら、冷水で冷やす。
こちらが出来上がりです。後藤さんがおっしゃっていたように、黄身がしっかり中心にあって、なんとも美しい仕上がりです。お湯を沸かす手間もない上に、こんなにきれいにできるのなら、ぜひ試してみたいですね!
おわりに
無水調理のメリットや鍋の選び方、簡単レシピや意外なレシピまで、ビタクラフトの後藤さんにその魅力をたっぷりと教えていただきました。
手軽においしく、栄養もしっかりとれる無水調理。ぜひみなさんも試してみてください。