重ね煮とはどんな調理法? そのメリットとは?
近年、じわじわと人気を高めている「重ね煮」。健康志向の高まりの中、砂糖や油を使わない料理法として、また料理が苦手な方でも簡単にできる調理法として注目されています。まずはそんな重ね煮の基本について「一般社団法人日本重ね煮協会」の田島恵さんに教えていただきました。
「重ね煮はそもそも東洋思想の『陰陽』の考え方から考案されたものです。食べ物には、身体を冷やし水気の多い「陰」の食材と、水気が少ない「陽」の食材があります。陰と陽、どちらかに偏らず、バランス良く摂取することが食養生の基本になります」と田島さん。
食材の陰陽の例
- 陰の食材=ほうれん草や白菜、キュウリやプチトマトなど土より上に伸びていくもの
- 陽の食材=ゴボウやニンジンのように土より下に伸びていくもの
- 中庸の食材=豆類や玄米など
陰と陽、それぞれの食材を重ね、少量の水や調味料とともに煮るのが「重ね煮」。重ね煮の手法で作られた料理は、陰陽の調和が取れているため、体を内側から整えていく働きが期待できると言います。
重ね煮の基本とは? 重ねる食材や順番はどう決める?
「重ね煮の作り方の基本としては、水気が多いものを鍋の底の火に近いところに置き、その上に水気が少ないものを順番に重ねていきます。きのこや海藻類、こんにゃくを一番下に入れ、葉物や果菜、芋類、根菜、穀類、魚肉、の順番になります。ここに少量の水を加えて、蒸し煮にしていくんです」(田島さん)
水気が少ないものを鍋の上の方に置くと火が十分に通らない印象がありますが、鍋底から水分が鍋全体に対流が起こるので短時間で十分に火が通るのだそうです。
「重ね煮はたくさんの食材を使用するのですが、最も大切なことはその陰陽バランスです。複数の材料を適当に重ねれば良いというわけではなく、正しい陰陽バランス、正しい順番で重ねることで旨味がしっかり出るのです」(田島さん)
田島さんは、初めて重ね煮を作る方には少し手間でも正確に分量を量ってくださいと伝えているそう。適切な陰陽バランスで重ねることで、素材の旨味が出て、滋養のあるふくよかな味に仕上がると言います。
重ね煮のメリットと美味しさの秘密
重ね煮のメリット1:ひと皿でたくさんの野菜を一度に取れる
重ね煮では、陰陽バランスが取れるように根菜・葉物・果菜など多種類の野菜を使います。ビタミンやミネラル・食物繊維を多く取れるのが嬉しいですね。
「お味噌汁やポタージュのような汁物を作る場合は、材料が5種類あると美味しくなります。汁物の場合は味が薄まってしまうため、旨味を出すためにそのくらいあると良いですが、煮物であれば2~3種類でも美味しくできますよ」(田島さん)
重ね煮は野菜だけではなく、お肉や魚、豆腐など食べられるものはなんでも使用できます。レシピも肉じゃがのような煮物からコロッケ、チャプチェなど和洋問わず多岐にわたるそう。
重ね煮のメリット2:食材の旨味を引き出せる
重ね煮では、食材を重ねた後に少量の水を加え蒸し煮にしていきます。蒸し煮は少ない水で食材の旨みや甘みを最大限に引き出す調理法です。食材の歯応えが残り、色合いも美しく、そして美味しく仕上がります。
重ね煮のメリット3:油と砂糖は不使用、調味料は少量の使用でOK
重ね煮の場合、野菜が持つ美味しさを引き出す調理法なので、調味料を入れる場合もほんの少量なのだそう。
「いろいろな食材を重ねることで相乗効果となり、旨味や甘みを出してくれます。こうした相乗効果により、野菜の持つえぐみやアクも角が取れて優しい味わいに。調味料を使用するレシピもありますが、素材の引き出すためにほんのちょっと添えるだけなので少ない量で済むんです」(田島さん)
体調やご病気のために砂糖や塩を控えたい方が重ね煮を知って、「調味料を使用していないのに美味しい」と喜ばれることもあるそうです。
重ね煮のメリット4:野菜の皮をむかなくてOK
「野菜の皮はむきません。野菜全体をまるごと使って調理することで甘みや旨味がしっかり引き出せると考えられています。そのため、基本的には皮を剥いたりあく抜きをしたりしないのです。ただ硬い里芋の皮のように食感が悪くなるものは剥くこともあります。レンコンやジャガイモ、ごぼうはそのままでOK。色がすごくきれいに出ます」(田島さん)
皮も丸ごと使うことで生ゴミを減らせますし、環境にも優しいエコな調理法ですね。
重ね煮のメリット5:あく取り不要
「一般的にあくは雑味だと言われることが多いですが、重ね煮ではそのままにした方が美味しくなるので取りません。例えばごぼうから出るあくにはポリフェノールが入っているので捨てちゃうのはもったいないですし、それが旨味のもとになります」(田島さん)
煮物では必須と思っていたあく取りも不要になるとは。たくさんの食材を下ごしらえする手間はかかりますが、省ける工程もあるんですね。
田島さんに、初めて重ね煮にチャレンジする方におすすめの料理を伺いました。
「まずはお味噌汁がおすすめです。その次は切り干し大根の煮物。切り干し大根って『炒めても出汁を入れても味がボケて美味しくならない』という声が多いのですが、重ね煮で作ると、醤油だけで本当に美味しくできるんです。戻し汁も全部使うのがポイントなのですが、旨味がぎゅっと凝縮してお料理が上手になった気がすると思います」と田島さん。以下に詳しくご紹介します。
【重ね煮レシピ1】お味噌汁
野菜を切って重ねた上に水と味噌を加えて煮込みます。野菜の旨味が出るので出汁は不要。また味噌も最初の工程から加えるという今までの常識を翻すような重ね煮レシピです。
材料
味噌・・・60g
油揚げ(細切り)・・・ 半分
ごぼう(ささがき)・・・20g
にんじん(半月切り)・・・25g
玉ねぎ(薄切り)・・・60g
さつまいも(輪切り)・・・80g
きのこ・・・60g
ねぎ(小口切り)・・・1本
水・・・3カップ
作り方
【手順1】
フタが閉まる鍋をまな板の隣に置く。
【手順2】
水気の多い野菜から切って鍋に重ねていく。鍋の底から、きのこ→さつまいも→たまねぎ→にんじん→ごぼう→油揚げ→ねぎの順に重ねる。
【手順3】
野菜を重ねたら、一番上に味噌を3~4か所に分けて重ねる。
水を重ねた素材の8分目まで入れ、フタをして中火にかける。
沸騰して良い香りがしてきたら火を弱めて野菜が柔らかくなるまで煮て、残りの水を加えて味を調えて完成。
味噌汁には必須ともいえる「出汁」を入れなかったことが不安でしたが、完成した味噌汁を口にして驚きました。野菜の甘味と旨味をしっかり感じられ、物足りなさはありませんでした。普段は味噌汁に入れる具材は1~2種類程度の場合も多いでしょうが、これだけたくさんの野菜を入れることで味わいの深みが増します。一度にたくさんの野菜の栄養も取れるのも嬉しいポイントですね。
【重ね煮レシピ2】切り干し大根の煮物
食材を重ねた後に水を加えて火にかけ、仕上げに醤油で味付け。味付けは醤油だけというシンプルなレシピです。一般的に切り干し大根は炒め煮にした後、醤油やみりん、砂糖で仕上げることが多いですが、油揚げの油分が全体に回って味に深みを出してくれます。
材料
油揚げ(千切り)・・・1枚
にんじん(千切り)・・・50g
切り干し大根(戻して適当な長さに切る)・・・50g
干ししいたけ(水に戻して千切り)・・・100g
糸こんにゃく(水で軽く流す)・・・100g
水(切り干し大根の戻し汁含む)・・・1.5カップ
醤油・・・大さじ2~3
作り方
【手順1】
鍋に糸こんにゃく→干ししいたけ→切り干し大根→にんじん→油揚げの順に下から材料を重ねて、水を加えてフタをし中火にかける。
【手順2】
湯気が出たら弱火にし、野菜が柔らかくなったら醤油を2回に分けて加え、弱火でしっかりと煮含めて完成。
途中で混ぜる必要はありません。上の方の野菜が柔らかくなっていたらOK。醤油を加えるタイミングです。
途中で混ぜないので、下の方の焦げ付きが心配でしたが、水気のあるものから入れているので焦げることはありませんでした。醤油だけで切り干し大根を味付けするのは初めてですが、深い旨味を感じられました。
おわりに
日本重ね煮協会の田島恵さんに重ね煮の魅力とレシピを教えていただきました。手間もなく簡単にできるのに美味しくて調味料も最低限しか使用しない重ね煮。ぜひ試してみてくださいね。