大豆ミートはなぜ話題になっている?
世界の人口は増加し続けており、食糧確保が大きな課題となっています。その中でも特に、十分な量の「食肉」の生産・供給が難しい(※1)とされています。
また、近年、地球温暖化はますます深刻化し、世界中で大規模な自然災害が増えています。
地球温暖化の主な原因となる温室効果ガスは、発生源の約3分の1が食に関わる(※2)ものとされています。
生産時に排出される温室効果ガス量は植物性食品と比べて動物性食品の方が多く、 その中でも特に牛肉が際立って多い(※3)ことをご存じでしょうか。温室効果ガスの削減のためにさまざまな対策が行われていますが、動物性食品の消費の削減も地球温暖化の抑制につながることは間違いありません。
そこで最近注目を集めているのが、代替肉の一つ「大豆ミート」です。大豆ミートとは原料となる大豆を加工し、肉に近い食感に仕上げた食品素材で、さまざまな形状や食感のものがあります。健康的かつ地球に優しい持続可能な食品の一例として、日本だけでなく世界中で開発が進められています。
※1『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』(2020、日経BP、田中宏隆 (著), 岡田亜希子 (著), 瀬川明秀 (著), 外村 仁 (監修))
※2、※3「食や住、ライフスタイルでCO2をどう減らす?-『都市の脱炭素化』ウェビナーシリーズ①」電力中央研究所 木村氏講演資料より
【調査】大豆ミートを食べたことはある? どんな料理で食べてみたい?
東京ガス都市生活研究所が調査した結果、大豆ミートを「家庭で料理して食べたことがある」と回答した人は約16%、今後家庭で料理して食べたいと回答した人は約32%いることが分かりました。家庭で大豆ミートを食べた経験がある人はそこまで多くないですが、3人に1人は今後、家庭で大豆ミート料理を作ってみたい、と感じているようです。
なお、今後食べたい理由の1位は「健康によい・よさそう」、2位以降には「カロリーが低い・低そう」、「栄養価が高い・高そう」、「環境によい・よさそう」などがランクインしていました。
大豆ミートはおいしくなさそう?!
一方、大豆ミートを使った食品を食べたいと思わない人は、なぜそのように感じているのでしょうか?
「大豆ミートを使った食品を食べたいと思わない」理由については、上記のグラフに示す通り、「おいしくない・おいしくなさそう」や「肉が好きだから」、という回答が上位にランクインしており、おいしさに課題を感じている方が多いと言えそうです。
大豆ミートをどんな料理で食べてみたい?
続いて、大豆ミートを「今後、食べたい」と回答した方は、どのような料理を食べてみたいと思っているのでしょうか?
大豆ミートを使ったメニューで食べてみたいもの上位10項目は、上記の通りです。
食べてみたい料理は「ハンバーグ」がダントツの1位でした。すでにハンバーガーチェーンなどでも大豆ミートを使ったメニューが販売されていることや、家庭でも作りやすくなじみのあるメニューであること、豆腐ハンバーグなどの食べ方も浸透している背景から、票が多く集まったのではないか、と考えられます。
【実験】大豆ミートを使った手ごねハンバーグ
では実際に、大豆ミートを使った料理と普通の肉を使った料理に違いはあるのでしょうか? 皆さんが気になるおいしさや食感はどうなのでしょうか?
そこで東京ガス都市生活研究所と食情報センターでは、食べてみたい大豆ミートメニューのアンケートで第1位だったハンバーグについて、ハンバーグ生地の大豆ミートの割合を「100%」、「50%(肉50%混合)」、「0%(肉100%)」の3種類に分けて比較実験を行いました。大豆ミートは市販されているレトルトパックのミンチタイプを使いました。
【ハンバーグ生地の調製】
【材料】
A 大豆ミート(レトルト、ミンチタイプ)・・・200g
B [大豆ミート・・・100g]+[牛豚ひき肉・・・100g]の混合
C 牛豚ひき肉・・・200g
A~Cそれぞれ
タマネギ(みじん切り)・・・100g
乾燥パン粉・・・20g
牛乳・・・20g
溶き卵・・・20g
塩・・・2g
【作り方】
3種類の生地は全て同じ条件で調製しました。
下記の写真のように、材料をヘラで100回混ぜてから同じ大きさに成形し、油をひいたフライパンに乗せました。
【加熱方法】
中火で1分30秒間加熱後(予熱なしのコールドスタート)、弱火にして6分間加熱しました。裏返してふたをし、弱火のまま6分間加熱して取り出しました。取り出したハンバーグはオーブンシートをかぶせて室温で60分間放置してから、測定を行いました。
【実験結果】大豆ミートハンバーグと肉100%ハンバーグとの違い
それぞれのハンバーグの切り口の断面を10倍に拡大して比較しました。「大豆ミート100%」ハンバーグでは、大豆の粒がはっきりと見えました。「大豆ミート50%」ハンバーグは、よく見ると、大豆の粒が肉の中に見え、なじんでいる様子が分かりました。一方、「大豆ミート0%」ハンバーグでは、肉がまんべんなく分布していました。
この結果から、大豆ミートの割合が多いほど、肉との食感に違いがありそうです。
大豆ミートハンバーグの硬さは?
大豆ミートハンバーグと肉のハンバーグでは、硬さに違いはあるのでしょうか? 写真のように専用の機器を用いて、ハンバーグの硬さを測定しました。
その結果、大豆ミートの割合が少なくなる、つまり肉の割合が多くなればなるほど、数値が大きい=硬い、という結果になりました。
この結果と比較するため、今度は実際に人が食べて評価する官能試験を実施しました。
見出し:【実験結果】実際に食べてみた感想は?
食関連の業務に携わる女性16人に実際に、同じ方法で調理した「大豆ミート100%」、「大豆ミート50%:肉50%」「大豆ミート0%(肉100%)」の3種類のハンバーグを食べて評価してもらいました。評価の際は、調理したハンバーグを写真のように4等分にカットしたものを食べ比べました。
ハンバーグの食感はどう違う?
食感の項目から見ていきましょう。
「粒感」は大豆ミートの割合が多いほど強く、「弾力性」はその逆の傾向となりました。
「総合的な食感の好ましさ」では、大豆ミート100%よりも50%の方がグンと高い評価となりました。この理由の一つとして、大豆ミート100%では気になる特有の粒感が大豆ミート50%では軽減されたことで、肉100%ハンバーグの食感と同程度の好ましさと評価されたのではないか、と考えられます。
粒感は、マイクロスコープでそれぞれの断面を撮影した結果とも一致します。大豆ミート50%ハンバーグの食感に関する自由コメントでは、「ミートボールのよう」、「粒感が適度にある点が良い」など、肯定的な回答が見られました。
ハンバーグの風味はどう違う?
続いて、風味について見てみましょう。
大豆ミートを100%から50%にすることで大豆の味やにおいが緩和され、適度に肉の脂も感じられる結果になっています。それが総合的な好ましさにつながり、大豆ミート50%の風味は大豆ミート100%と比べてグンと高い評価になったことが考えられます。
官能試験の自由コメントでは、大豆ミート100%ハンバーグは「大豆のにおいがきついので好みではない」といった回答が見られた一方、大豆ミート50%ハンバーグでは、「肉の風味やコクが加わり食べやすかった」、「サッパリとして食べやすかった」といった回答が見られました。
大豆ミートの50%置き換えで食感も風味もアップ!
総合評価は、おいしさの評価が高い順から、大豆ミート0%(肉100%)、大豆ミート50%(肉50%)、大豆ミート100%、という結果になりました。
大豆ミート50%ハンバーグは、普段食べ慣れているハンバーグとは食感や風味に違いがあるものの、大豆ミート100%と比べると大豆の味やにおい、粒感が大きく緩和されることで食べやすさが増し、総合評価も高くなったと考えられます。
大豆ミート50%の自由コメントでは、「脂っぽい料理を食べたくないとき、食べたくなりそう」、「あえて選択して食べてみる日があってもよい」、「ダイエットに良いと言われれば食べる」などの回答が見られました。
大豆ミート、まずはハーフ&ハーフから取り入れて!
調査結果からおすすめしたい大豆ミート料理はずばり、「大豆ミート50%+肉50%」のブレンドです。
材料もシンプルで簡単に作ることができて、おいしく健康的に食べられます。
大豆ミートが気になっているけれどもまだ作ったことがないという方や、おいしく食べられるかちょっと不安という方。そんな方には、今回ご紹介した大豆ミートと肉のブレンド調理、「50%置き換え」から気軽に始めてみることをおすすめします。慣れてきたら、お好みのブレンド割合を探してみるのも楽しいですね。
大豆ミートをはじめとする代替肉は、ご家庭の料理にも気軽に取り入れることができます。
明日からできる食のSDGsのアプローチとして、まずは、お肉と大豆両方の風味を程よく感じられる、ハーフ&ハーフの大豆ミート料理を試してみてはいかがでしょうか?
※材料のお肉の半量を大豆ミートにしてお試しください。
おわりに
大豆ミートはお近くのスーパーでも購入できます。まだ見たことのない方は、ぜひ探してみてはいかがでしょうか。大豆ミートの味はメーカーによっても異なるので、いろいろ食べ比べてみるのも楽しいですね。
ご紹介した「ハーフ&ハーフ」の手法を活用して、大豆ミート料理を、ぜひご家庭でも気軽にお試しください。
代替肉をテーマにした食のセミナー動画もご紹介しています。代替肉についてもっと知りたい方は、こちらからご覧ください。
執筆者:東京ガス都市生活研究所兼食情報センター 統括研究員 松葉佐 智子
東京ガス食情報センター 管理栄養士 松田 悠