疲労や筋肉痛と血流の関係を知る
これまで東京ガスでは風呂文化研究会の活動に加えて、入浴に関するさまざまな情報発信を行ってきました。また、2019ラグビーワールドカップや、東京2020オリンピック・パラリンピックなど、スポーツへの関心が高まっている中、入浴が疲労回復やリカバリー、ケガへの備えなどに繋がるのではないかと考えました。そこで、「入浴×スポーツ」という視点で、さまざまな専門家にお話をお聞きしました。
今回は、リハビリテーション医学や温熱医学を専門としている国際医療福祉大学大学院の前田眞治先生に、疲労や筋肉痛、血流との関係などについて、お伺いしています。
疲労物質と筋肉痛(痛み)のメカニズム
ランニングなどのスポーツをした後、筋肉が炎症を起こしたり、痛んだりすることがありますよね。疲労物質にはカルシウム、カリウム、ブラジキニン、トロンボキサンA2などがあり、スポーツをした後の身体はこれらの疲労物質がたまっている状態なのです。
それが原因で筋肉が収縮しっぱなしになり、痛みを感じます。ランニング中に起こるこむら返りや、脚がつるのも同じで、疲労物質が原因です。
以前は、乳酸が疲労の原因物質と考えられていましたが、さまざまな研究によって疲労物質ではないことがわかっています。
疲労物質によって、なぜ痛みが出るのかというと「これ以上、ここの筋肉を使ってはいけない」という合図だから。筋肉を酷使し続けると、筋肉が断裂する可能性があり、それを避けるために痛みを発してブレーキをかけているのです。
少しでも早く疲労を回復させるには?
前田先生にお聞きすると「疲労回復にはお風呂に入るのがおすすめです。身体が温まると血管が開き、血流量が多くなります。血流が良くなると、疲労物質が洗い流されたり、損傷した筋肉を再生させたりするのです」とのこと。
41℃で入浴したときの組織血流量の経時的変化
上のグラフは41度で入浴したとき、1分間に100gの組織でどのぐらいの血流量が増えたかを調べたものです。入浴してすぐに血流がグンと増えることがわかります。
お湯は空気と比べて、熱の浸透度が3,700倍ほどあり、短い時間でも体温が上がり、血流が良くなります。一方、シャワーは浴槽に浸かる入浴に比べて熱量が少なく、皮膚の表面だけ温まってしまい、身体の中まで温まりません。疲労回復を「早く」「効果的」に行うには、お風呂(浴槽)に入るのが適切な方法なのですね。
血流がもたらす3つの効果
血流が良くなると、主に3つの効果が期待できるそうです。
(1)たまった疲労物質を洗い流し、筋肉痛を緩和する。
血流が良くなることで、たまった疲労物質が洗い流され、身体を温めると筋肉が伸び、痛みも和らぎます。
上のグラフは41度で15分入浴したとき、入浴前と入浴後で腰の痛みに変化があるかを調べたものです。身体を温めることで、痛みが和らいだことがわかります。
(2)損傷した細胞をきれいにし、再生させる。
血流がよくなると、損傷した部分に良質の血液が来て、白血球や貪食細胞(マクロファージなど)が死んだ細胞を食べてきれいにするサイクルが促進されます。そして、赤血球などによって栄養や酸素が届き、新しい筋肉や腱を再生します。つまり、血流が良くなることで、掃除と建築の両方を一気に行うのです。
(3)筋肉の熱を下げる。
スポーツ後の筋肉は熱を発しているため、まずは筋肉を冷やして、通常の体温に戻す必要があります。もともと血液は、熱を発した筋肉よりも温度が低いため、ラジエーターのように少しずつ筋肉を冷やす働きが備わっています。
また、より早く筋肉の温度を下げて損傷を抑えるためには、その部分を冷やす「クーリング」が必要になることもあります。筋肉を冷やす理由や、その上で血流を良くする入浴法については、次の回で詳しくご紹介します。
おわりに
スポーツによる疲労をそのままにしていると、慢性疲労となってパフォーマンスの低下やケガの原因に繋がります。仕組みや対処法を知って、早く、効果的に疲労を残さないようにしておきたいですね。次回は、疲労回復に効く入浴法を詳しくご紹介します。