包丁を研ぐことのメリット
包丁を研ぐことは、さまざまなメリットがあります。具体的にどんなメリットがあるのか、山田さんに教えていただきました。
切れ味がよくなることで素材本来の味が楽しめる
「包丁の切れ味がよいということは、食材の細胞をきれいに切断できるということ。きれいに切断できると見かけが美しいだけでなく、細胞が壊れた断面から水分などが流出することも防げるので、素材の食感も保つことができます。しかも、実は、切れ味のよい包丁を使うと食材の雑味や苦みを抑えることができるんです」(山田さん)
貝印株式会社では、実際に味覚センサーで計測したうまみや苦み、甘みなどの調査結果※を発表しています。それによると、研がずに使い続けた包丁で切った食材は新品の包丁で切ったものに比べ、うまみが減少・苦みや酸味がアップしていることが分かっています。
包丁の切れ味がよいと見た目や食感が良くなり、食材を傷めることなく新鮮さが保たれます。山田さんによると「ピーマンのような苦みの強い野菜でも、切れ味がよい包丁を使うことで苦みが軽減し、ピーマンが苦手な子どもでも食べやすくなったという事例がありましたよ」とのこと。好き嫌いが多く野菜嫌いなお子さんには、一度切れ味アップによる味の変化を試してみるのも良いかもしれませんね。
※貝印株式会社 プレスリリース「食材の美味しさは包丁の切れ味で決まる! ~味覚力に優れた日本人には、うまみを引き出す包丁を~」
切れ味がよくなることで包丁を安全に扱える
切れ味が鋭い包丁は取り扱いが怖いと思ってしまうかもしれません。しかし山田さんは「実は切れ味がよくなることで、安全に扱えるようになるのです」と言います。
「切れ味がよい包丁は切る時に無駄な力が不要です。包丁の重さだけで切ることができるため扱いやすくなり、ケガをする危険も減ります。切れ味の悪い包丁は力を入れないと切れないので扱いづらくかえって危険なんです。また切れ味の悪い包丁に慣れてしまうと、知らず知らずのうちにノコギリのように押し引きして切る癖がついてしまいます」(山田さん)
ノコギリのように切ると食材の細胞をつぶしてしまい、食材の切り口も美しくなくなってしまいます。切れ味がよいというのは、悪い癖がつかず包丁を正しく使うことができ、安全に扱えることを意味します。
定期的に研ぐこと・洗うことで包丁の質が保たれる
「包丁を研ぐことは切れ味が良くなるだけでなく、包丁の質を保つことにもつながります。研ぐというのは刃の表面を削るので、包丁に付いたさびや腐食を防ぐことができるからです」(山田さん)
包丁は洗い方も大切
「定期的に包丁を研ぐことと同時に、しっかり洗うことも大切です。正しい包丁の洗い方は、刃に触らず包丁をまな板の上に置き、スポンジの柔らかい面で片面ずつ洗ってください」(山田さん)
包丁の質を保つには定期的に研ぐ・洗うといった日常のお手入れが大切なのですね。
参考:貝印株式会社「包丁のメンテナンス 包丁のお手入れ方法」
包丁を研ぐタイミングは?
包丁の切れ味は知らず知らずのうちに劣化していくもの。どのような状態になったら研ぐのが良いのでしょうか?
「包丁は新品を買っても、数カ月も使うと切れなくなってしまいます。研ぐ頻度は一般的には1カ月に1回といわれてはいますが、人によって使い方や使う物が異なるのでかなり差が出ます。そのため頻度は一概には言えません。
しかし物を切ったときに『滑る感覚』があったら、研ぐタイミングだと思いましょう。例えばトマトの皮を切るときに、包丁の重さだけで切れず皮に沿って滑ってしまう感覚や、ネギを薄く切ろうとしたときに、カクンと横に滑る感じです」(山田さん)
また、普段の調理で切れ味を落とさないための注意として、山田さんは「包丁を使い分けること」をすすめています。
「三徳包丁などでも、硬いものなどを切ると切れ味が悪化してしまいます。包丁の切れ味を保つためには、凍った物を切る時は冷凍包丁を使う、魚の骨など硬いものを切るときは出刃包丁を使うなど、それに合う包丁に替えることをおすすめします」(山田さん)
包丁の使い方や劣化のスピードは人それぞれ。いつ研ぐかの明確な基準がないからこそ、日ごろから包丁の使い方や「切れなくなったな」という感覚に注意しておくことが大切なようです。
包丁を研ぐための道具
包丁を研ぐ道具としては、砥石とシャープナーの二つの種類が一般的です。それぞれの違いやメリット・デメリットなどを山田さんに教えていただきました。
シャープナー
「シャープナーは初心者でも簡単にスピーディーに包丁を研ぐことができる簡易砥石です。研ぐための準備が不要なので、切れ味が悪いな、と思ったらすぐに研ぐことができる手軽さがメリットです。しかしシャープナーは刃全体ではなく、刃の先のみを研ぐものなので、砥石に比べると仕上がりは劣ります。
シャープナーは刃全体を研ぐことはできないので、ひどい刃こぼれや変形は修復することはできません。切れ味も一時的には戻すことはできますが、シャープナーで研ぐことを繰り返すと刃先のみすり減り、包丁本体が厚くなってしまい切れなくなってしまいます。そういったときは砥石で刃の全体を研ぎ、薄い刃にする必要があります」(山田さん)
砥石
砥石で包丁を研ぐ場合は、「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」といった砥石を使い分けて研いでいくなど、ある程度の時間と技術が必要なため、初心者にはハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし山田さんによると「砥石は刃の全体を研ぐので、多少の刃こぼれや変形があっても新品に近い形にすることができます。またシャープナーを使った場合より切れ味が長持ちします」とのこと。
「ただし、長年にわたって包丁を研ぎながら使っていると、砥石でも刃を薄くできなくなってきます。そのときは包丁の寿命と考えましょう」(山田さん)
砥石を使った包丁の研ぎ方は、下記の記事で紹介しています。
【簡易研ぎ器はNG!?】創業96年のプロ直伝!ご家庭でできる「包丁の正しい研ぎ方とコツ」
シャープナーを使った包丁の研ぎ方
シャープナーにはいくつか種類があり、研ぎたい包丁の種類などによって使い分けます。
両刃、片刃、波刃(パンナイフ)、電動シャープナーそれぞれの研ぎ方を山田さんに教えていただきました。
両刃包丁の研ぎ方
家庭では三徳包丁に代表される両刃包丁が多く使われています。
例えば、貝印の両刃用のシャープナーのように、3段階の性質の異なる砥石が内蔵されているものでは、1番から順に使って研いでいくことで簡単に包丁の切れ味をよみがえらせることができます。
【手順】(貝印「関孫六ダイヤモンド&セラミックシャープナー」使用の場合)
- 1番を10回程度、水を付けない状態で手前に研ぐ
- 2番も10回程度、同様に研ぐ
- 3番は5回程度、同様に研ぐ
- 研いだあとは刃に汚れが付いているので、ふきんなどで優しく拭く
「シャープナーによっては水を付けて研いだり、前後に研いだりするものもあります。使用する前に取扱説明書をしっかり確認してから行ってください」(山田さん)
片刃包丁の研ぎ方
出刃包丁のように片面にのみ刃がついている包丁は、片刃専用のシャープナーで研ぎましょう。片刃用シャープナーでも、両刃用同様に3種類の砥石が内蔵されているものの場合、順に使って研ぐことで、片刃の切れ味をよみがえらせることができます。
【手順】(貝印「関孫六ダイヤモンド&セラミックシャープナー 片刃用」使用の場合)
- 1番を10回程度、水を付けない状態で手前に研ぐ
- 2番も10回程度、同様に研ぐ
- 3番は5回程度、同様に研ぐ
- 研いだあとは刃に汚れが付いているので、ふきんなどで優しく拭く
波刃(パンナイフなど)の研ぎ方
パンナイフのような波刃の場合、刃が凸凹しているので砥石では研ぐことができませんが、波刃専用のシャープナーを使えば切れ味をよみがえらせることができます。
【手順】(貝印「波刃が研げるシャープナー」使用の場合)
- 10回程度、水を付けない状態で手前に研ぐ
- 研いだあとは刃に汚れが付いているので、ふきんなどで優しく拭く
電動シャープナーの場合
電動シャープナーとは、包丁を入れると内蔵された砥石がモーターで自動で回転し、スピーディーに包丁が研げるシャープナーのことです。電池式のものであれば、場所を選ばず使えます。基本的に両刃用のものが多いでしょう。
「他のシャープナーに比べると刃付けは多少荒い仕上がりになりますが、一般家庭で使うには十分な切れ味が戻ります」(山田さん)
【手順】(貝印「コンパクト電動シャープナー」使用の場合)
- スイッチを入れ、2~3回研ぐ(切れ味が悪ければもう一度研いでもよい)
- 研いだあとは刃に汚れが付いているので、ふきんなどで優しく拭く
失敗しないシャープナーの使い方
シャープナーで包丁を研ぐときによくある失敗や、失敗しないためのポイントを山田さんに教えていただきました。
曲線に沿って端から端まで均一に研ぐ
包丁を研ぐときの失敗の一つに、切れない部分のみ研いでしまうケースがあります。
「切れない部分のみ研いでしまうと包丁の曲線が損なわれ、その箇所だけへこんでしまいます。研ぐときは刃元から切先まで、曲線に沿って均一に研ぐことが大切です」(山田さん)
刃元を傾けながらシャープナーに差し込み、切先までしっかり引き抜くことを意識しましょう。
力を入れ過ぎない
初めてシャープナーを使うときは、どのくらいの力で研げばよいのか分かりにくいかもしれません。
山田さんによると「研ぐときに力を入れ過ぎると、せっかく付けた刃をつぶしてしまいます。慣れていないとつい力が入ってしまいますが、不要な力はかけず包丁の重さだけで研ぎましょう」とのことです。
刃を傾けない
シャープナーで研ぐときは、砥石に当たる刃の角度にも気を付けましょう。
「シャープナーに刃を差し込んだとき、砥石に直角にまっすぐ当たるように研ぎましょう。傾けると刃の側面に傷が付いてしまうだけでなく、シャープナーの寿命も縮めてしまいます」(山田さん)
失敗したらプロに「研ぎ直し」を依頼するのもおすすめ
自分で上手に研げなかったら、刃物店などでプロに研ぎ直してもらうと失敗した部分を修正してきちんと刃をつけることができます。
切れ味の確かめ方
切れ味が良くなったかどうかを確かめるには、柔らかいトマトを切ってみると分かりやすいでしょう。切れ味がよい包丁では繊維をつぶすことなく、包丁の重さだけで切ることができます。トマトの水分がほとんど出ることもないので、見た目も美しくおいしさも保たれます。
おわりに
砥石で包丁を研ぐのは「難しそう」と諦めている方も、シャープナーなら初心者でも手軽に包丁を研ぐことが可能です。スッと切れる包丁は安全に扱えるだけでなく、料理のおいしさをアップし、時短も可能にしてくれます。ぜひ切れ味のよい包丁で、毎日のお料理を楽しんでくださいね!