「打ち直し」とは、布団のリフォームのこと
布団の打ち直し。言葉は聞いたことはあるけれど、実際にやったことがある人は少ないのではないでしょうか。
いったいどんなことをするのか、どのくらいの時間や予算がかかるのかなど、気になる布団の打ち直しのアレコレを、大正6年創業の株式会社森製綿所さんに教えていただきました。
「布団の打ち直しとは、布団をリフォームしてほぼ新品のような状態にすることです。中に入っている綿を出し、綿をほぐして空気を含ませ、元通りの布団に戻して仕立てます」(工藤さん)
その際、汚れた綿は取り除かれ、新しい綿が足されて、外側の生地(側地)は新しいものに取り替えられるそう。
それってもはや「新品」同様ですね! 愛着のある布団がピカピカになって戻ってくるなんて、嬉しいことです。
布団を打ち直すメリット1:ふっくら感・ボリュームが出る
布団の打ち直しは、もともと入っていた綿を7~8割ほど使い、残りは新しい綿を足すのだそう。
「綿が足された分、当然ですがボリュームが出ます。へたり具合にもよりますが、元の布団の2倍くらいの厚みに仕上がりますよ」(工藤さん)
布団を打ち直すメリット2:カビ・ダニを一掃できる
上の写真は、綿をほぐす際に除去された綿ごみ。
「カビなどで汚れた部分は、機械がすべて取り除きます。汚れを取り除いたあと、綿をオゾン処理するので、殺菌・防臭効果も高くなるんですよ」(工藤さん)
布団を打ち直すメリット3:布団の寿命が延びる
綿は吸水性が高いため、どうしてもカビやすい性質を持っています。カビた部分が取り除かれると、大繁殖のリスクを抑えられますから、布団の寿命をより長くできますね。
また、綿は繊維が固まるとちぎれやすくなります。打ち直しで繊維のかたまりや偏りをほぐすと、綿が均一に絡まり合って長持ちするそうです。
布団を打ち直すメリット4:サイズ変更ができる
家族が独立したり、引っ越しでクローゼットに入らなくなったなど、家庭の変化に柔軟に対応できるのも打ち直しの利点です。
「長さや幅の変更は自由自在です。ダブルの布団をシングル布団2枚に分けてほしい、とか、使わなくなったシングル布団でこたつ布団を作ってほしいというオーダーも多いですよ」(工藤さん)
布団を打ち直すメリット5:生地のデザインを変えられる
和柄の側地をシンプルな無地にしたり、シミが目立たない濃い色に変えたり、側地が変わると布団の印象は一新します。
愛着はあるけれど、ちょっと好みにマッチしなくなってきたな・・・というときに、自由に着替えができるのも嬉しいポイントですね。
【布団の打ち直しができるまで】はがす ⇒ ほぐす ⇒ のばす ⇒ 仕立てる
打ち直しの工程は、とてもシンプル。森製綿所さんではこんなステップを踏んで、布団がふわふわによみがえっています。
【布団打ち直しの工程1】はがす
全国から宅配便で送られてくる布団。古い側地をはがしたあとは管理札がつけられるため、他の人の綿が混じってしまうことはありません。
【布団打ち直しの工程2】ほぐす
生地をはがした綿に、新しい綿を少し足して、混打綿機(ほぐし機)にかけます。機械の中で細い棒がくるくると回転し、綿を叩きながらほぐしていきます。
混打綿機(ほぐし機)でほぐされた綿。古い綿と新しい綿と混ざり合って、ふわふわの綿あめ状態に!
【布団打ち直しの工程3】のばす
カード機という機械で、ほぐした綿の繊維を整えながら、薄く幾重にも重ねてシート状に。
この工程を行うことで、綿に層が出て通気が良くなり、保湿性も上がるそうです。
【布団打ち直しの工程4】仕立てる
シート状の綿を布団のサイズに合わせて、何枚も重ねていきます。ただミルフィーユのように積み重ねるわけではなく、眠ったときに心地よく、長く使っても綿に偏りが出ないよう、この道60年の職人さんが匠の技で、素早く綿のレイアウトを考えながら「位置取り」をしていきます。
袋状に縫われたカバーに、鮮やかな手さばきで綿が詰められました。隅々まで偏りなくならして、返し口を閉じます。綿がずれないよう、綴じ糸を等間隔で打っていく技術もお見事です。
最後は検品。丁寧にホコリが取り除かれて完成です。もともとは和柄だったという敷布団、シンプルなベージュに生まれ変わりました。
どんなときに布団を打ち直しするの? ポイントは「底付き感」
布団の打ち直しはどのくらいの頻度で行うものなのでしょう。
工藤さんによると打ち直しのタイミングの目安は「布団を干しても膨らまなくなったとき」。
そしてもう一つが、底付き感です。
「布団がへたるスピードは、寝る人の体格や寝相によって違います。〇年経ったから、とは考えず、寝心地で確かめましょう。横になったときに“底付き感”があるときは、打ち直しのタイミングですね」(工藤さん)
“底付き感”とは、布団の弾力よりも床の硬さを感じる状態のこと。寝返りをうつと肩が床に当たるような気がする、朝目覚めたら腰痛があるなどが、底付き感の目安です。
掛布団や羊毛布団も打ち直しできる? 打ち直しと丸洗いの違いとは?
打ち直しができるのは、基本的に綿の敷布団と掛布団。ポリエステルなどの化繊布団は打ち直しできません。
羊毛の敷布団や羽毛の掛布団は、綿とは手法が異なりますがリフォーム可。
「羽毛布団は中身の羽毛をすべて取りだし、ホコリやゴミを取り除いて、羽毛を洗浄します。洗浄することでふわふわの質感が戻ってきます」(工藤さん)
おねしょで汚れた布団も打ち直しできる?
羽毛は洗うとふわふわになりますが、綿は洗うとどうなるのでしょう。
答えはなんと「固く締まってしまう」のだそうです。
「布団の丸洗いは綿を清潔に保ち、布団を長持ちさせる効果がありますが、綿の性質上、繊維がまとまり合って固くなってしまうデメリットもあるんです」(工藤さん)
おねしょなどで汚れた布団を再生させるには、まず丸洗いで汚れを取り除き、そのあとに打ち直しをするのがベストだそうです。
打ち直しの費用は、シングル布団で1万円+αほど
森製綿所のWEBショップ「わたや森」では、シングルサイズの布団打ち直しは1万2千円(送料込)。
「化繊など低価格帯の布団に比べると、ちょっと高いなと感じる方もいるかもしれません。ただ、打ち直しをするととにかく布団が長持ちしますので、お安い布団を何度も買いなおす手間やゴミの処分費などがかからないというメリットがあります」(工藤さん)
低価格の布団をこまめに買いなおすか、綿布団を買って打ち直しをしながら長く使うか、コスト面ではどちらかがずば抜けてお得ということはなさそうですね。
江戸時代からの生活の知恵。20代の利用者も増えている!?
布団の打ち直しは、江戸時代から続く生活の知恵。高度経済成長を迎えるまでは、各家庭で当たり前に行われていることでした。
「昔は綿が高価だったため、布団はその家の財産でした。綿がペタンコになったら、綿をほぐし、綿をつぎ足して、1枚の布団を長く使ったのだと思います」(工藤さん)
その後、安価な化繊の布団が一般化し、布団は「打ち直すもの」から「買い直すもの」へ。
一時は廃れると思われた打ち直しの文化ですが、いま森製綿所さんのもとには、全国の20代~70代から幅広くオーダーが入るのだそうです。
「天然素材である綿は、吸水性がよく、寝心地がとてもさわやかです。独特のどっしりとした重みはありますが、化繊は軽すぎて眠りにくいという人もいますし、化繊で肌が荒れてしまう方もいます。寝心地の好みって、十人十色なんですよね」(工藤さん)
また、ものを大切にするという文化やストーリーを大切にする人も増えているそう。
「おばあちゃんが自分のために縫ってくれた布団を、今度生まれるベビーのサイズに仕立て直してほしい、とか、結婚のときに親が持たせてくれた布団なので長く使いたい、というご依頼が多いですよ」(工藤さん)
布団の打ち直しによって、多くのストーリーが生まれ、物語が受け継がれていく。とても素敵なことですね。
おわりに
持続可能な社会のための目標「SDGs」(エスディジーズ)、最近よく耳にするようになりましたね。いまを生きる私たちには、限りある資源を大切に、次世代によりよい地球を引き継いでいく行動が求められています。今回ご紹介した布団の打ち直しも、SDGsに即した生活の一つといえるかもしれません。