【日本のオルタナティブ教育】トットちゃんの学校、「トモエ学園」とは?
黒柳徹子さんの自伝的エッセイで、ベストセラーとなった「窓際のトットちゃん」という本は、幼少期に通った「トモエ学園」という学校の話がメインになっています。彼女の自伝的ドラマの主題歌も、タイトルも「トモエ学園」となっています。
トモエ学園は、1937年(昭和12年)に設立されました。日本で最初にリトミックを取り入れたことでも知られています。
その設立より少し前、大正時代に、大正デモクラシーの流れに乗って、「大正自由主義教育」という新しい教育を求める運動がありました。
明治期からの画一的な教育スタイルではなく、「子ども中心」、子どもの関心や感動を大切にした、自由で新しい教育を目指そうとする運動でした。
この考え方にのっとって、様々な新しい学校が生まれました。その一つが「トモエ学園」です。
現在は存在しませんが、自由が丘の駅近くの跡地に記念碑が残っています。
トモエ学園の教育方針とは?
「子ども中心」とは、子どもが自己中心的に好き勝手をする、という意味ではありません。
大人が計画した教育内容を子どもに一方的に詰め込むのではなく、子ども自身がもともと持っている個性や、興味・関心などを大切にしようそして、子どもが主体的に学べるような教育をしよう。それが、「大正自由主義教育運動」が目指したことでした。
「どんな子も、生まれたときにはいい性質を持っている。それが大きくなる間に、いろいろな周りの環境とか、大人たちの影響でスポイルされてしまう。だから、早くこの『いい性質』を見つけて、それを伸ばして個性のある人間にしていこう」
「子どもを先生の計画にはめるな。自然の中に放り出しておけ。先生の計画より子どもの夢のほうがずっと大きい」
創設者の小林宗作氏の言葉からも、子どもの個性や夢を大切にする教育方針が覗えます。
引用:黒柳徹子「窓際のトットちゃん」、講談社、発行:1991/6/5
トモエ学園みたいな学校が今もある! 日本の「オルタナティブ教育」とは
「窓際のトットちゃん」を読まれて「トモエ学園みたいな自由な学校に、うちの子どもも通わせたい!」そんな方もいらっしゃると思います。
しかし残念なことに、このトモエ学園は第二次世界大戦の空襲で焼失してしまい、その後再建されないまま閉校となってしまいました。
でも実は、諦めるのはまだ早いです。「オルタナティブ教育」と呼ばれる、トモエ学園と同じ教育方針を実践している学校が、今も全国各地にあります。
また、トモエ学園と同じ「大正自由主義教育」の考え方で設立され、現在まで続いている私立学校もあります。
「オルタナティブ教育」とは?
「オルタナティブ(Alternative)」とは、「もう一つの」「別の可能性」などの意味で、これまでの中心的な考え方に対して、別なあり方という意味です。
現在の「教育」の中心的な考え方は、総合学習など少しずつ変化はしていますが、基本的には教科書やテストを中心とした知識重視の授業を行う、というスタイルが基本だと言えます。
それに対して「オルタナティブ教育」とは、そうではない教育のあり方。子ども一人一人の個性や興味を大切にする「子ども中心」の教育方針で、「子ども中心主義教育」「人間性教育」などと呼ばれることもあります。
これは世界的な動きで、世界中に「オルタナティブ教育(Alternative education)」と呼ばれる教育が広がっています。
日本では、大正自由主義教育に始まった「子ども中心」の教育の流れは、第二次世界大戦等もあり、いったん途切れてしまいました。
しかしその後、高度経済成長期を超えた1970~80年代頃から、また新しい教育を求める運動が始まり、再び様々な新しい学校が作られ始めました。これが日本における「オルタナティブ学校」「オルタナティブスクール」とも呼ばれています。
【日本のオルタナティブ教育】今通える「トモエ学園みたいな学校」はここ!
現在通える「トモエ学園みたいな学校」、つまり「子ども中心」の教育方針の学校には、3つのタイプがあります。
1. 大正自由主義教育の時代からつくられて、今まで続いている学校
2. 海外のオルタナティブ教育を導入して作られた学校
3. 独自のオルタナティブ教育的なカリキュラムを作っている学校
それぞれのタイプの説明と、例えばどんな学校があるかについて、具体的にご紹介します。
1. 大正自由主義教育の時代につくられ、今まで続いている学校
大正自由主義教育運動ではさまざまな学校が設立されましたが、トモエ学園のように色々な理由で閉校になってしまった学校もたくさんありました。
その中で、今も続いていて小学部からある学校は、東京都に6校あります。長い歴史を経て現在は全て、小・中・大を備えた私立学校です。
最初はどの学校も、「トモエ学園」のような、志と熱意に支えられた小さな学校だったそうです。
今は学校の規模も大きくなり、時代に合わせて変化した部分もありますが、その志は今も受け継がれているそうです。
たとえば、東京都東久留米市にある「自由学園」では、知識の詰め込みではなく、本物に触れる体験を通して自ら発見し、考えながら身につけることを大切にしています。
また、「生活から学ぶこと」が大切にされていて、例えば、小学生の子ども達が給食の配膳はもちろん洗い物まで行ったり、中等部になれば自分達で給食を作ったり、高等部では校内の芝刈りを自分達でやったりします。
机の上の勉強だけでなく、皆で力を合わせて「自分達のことは自分達でやる」という生活体験から、人として大切なたくさんのことが学べるという考え方です。
2. 海外のオルタナティブ教育を導入して作られた学校
海外のオルタナティブ教育を導入し、日本で作られている代表的な学校は以下です。
・シュタイナー教育
・モンテッソーリ教育
・サドベリースクール(デモクラティックスクール)
これらの学校は、基本的にはそれぞれの教育で確立されたカリキュラム等を導入しつつ、日本の文化・風土や各校に合わせてアレンジした教育を行っています。
「トモエ学園」のイメージとは異なる部分もあるかもしれませんが、「子ども中心」という教育方針や、目指しているところは共通しています。
シュタイナー教育は、日本全国に多くの幼児教育施設(幼稚園・保育園等)があります。
また、全日制の学校も全国で7校あり、小中一貫、又は小・中・高の一貫教育を行っています。
(シュタイナー教育について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい)
モンテッソーリ教育も、日本全国に多くの幼児教育施設(幼稚園・保育園等)があります。
全日制の学校は、現在3校あります。また、幼児教育の園に小学生クラスがある場合もあります。
(モンテッソーリ教育について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧下さい)
サドベリースクール(デモクラティックスクール)は、日本全国に9校作られています。
4~18歳が同じ空間で関わり合いながら、「子どもの興味や関心にそって、子どもが自分から学ぶ」という方針を徹底しているスクールです。
子どもが自分でやりたいことを企画して、大人はそれをサポートする。皆に関わることは、何でもミーティングで話し合って決める。その中で、子どもが自分の人生に必要なことを自分で学んでいく、という考え方です。
※各教育の学校数は2020年11月時点です。
3. 独自のオルタナティブ教育的なカリキュラムを作っている学校
大正自由主義教育や、海外のオルタナティブ教育を取り入れつつも、独自のカリキュラムを作っている学校もあります。
例えば、「きのくに子どもの村学園」は、イギリスのサマーヒルスクールという学校等を参考に、独自のカリキュラムで作られた私立学校です。和歌山から始まり、5校の分校を展開しています。
この学校では、子どもたちは自分の好きなテーマを選び、異年齢の縦割りクラスで体験学習や基礎学習をしていきます。テストや宿題、一方的な授業はありません。
小学生から寮で共同生活ができるのも珍しい特徴で、自宅からある程度離れていても入学ができます。
「東京コミュニティスクール」は、独自の「探究型学習」を軸とした学校です。
教科を融合させたテーマ型の学習を中心に、個々人に合わせた基礎学習や、様々な体験や実験、プレゼンテーションなどをたくさんしながら学んでいきます。
教員スタッフはナビゲーターと呼ばれ、子どもたちと活発にコミュニケーションしながら学びを深めていきます。
また、幼稚園ではありますが、北海道にある「札幌トモエ幼稚園」は、まさに「トモエ学園」に共感して名付けられた私立幼稚園です。
創設者である現園長先生は、黒柳徹子さんのお母さんにも会って話を聞かれたそうで、「母と子どもの関係性」をとても大切だと考えました。そこでトモエ幼稚園は、子育て中のママがいつでも悩みを相談できたり、仲間ができるようにと、「いつでも親子で一緒に遊びに来れる」というコンセプトになっています。
他にも、プロジェクト・テーマ型の学習を行う学校、自然体験を大切にした学校など、全国に様々なオルタナティブ学校があります。
日本のオルタナティブ教育の注意点・デメリットとは?
日本でオルタナティブ教育を行う学校に通いたい! と思ったときに、ちょっと注意点があります。
「認可外」の学校もある
大正自由主義教育の学校など、歴史の長い学校は「私立学校」として認可されていますが、上記に紹介した学校のうち「私立学校」と書いていない学校は、基本的に「認可外」の学校です。
私立学校として認可されるには、資金や土地・建物などに厳しい規定があります。
そのため現在では、トモエ学園のような、少人数を丁寧に教育する手作りの学校を0から作ろうと思うと、その規定に合いにくいのが実情です。
認可外の学校に通う場合、子どもは地元の学校に籍をおく、という法的な扱いになります。
通学・進学については、各学校で色々な工夫をしていますが、一般の公立・私立学校に通うことに比べると不便な面もあるので、あらかじめ理解が必要です。
「不登校」の子どものための学校というわけではない
トットちゃん、つまり黒柳徹子さんは、個性的すぎて公立学校を「退学」になったために、トモエ学園に入学したという経緯が著作等で描かれています。では、オルタナティブ教育の学校が、いわゆる「不登校」の子どものための学校なのかといえば、そういうわけではありません。
基本的には、オルタナティブ教育の学校は、その学校の理念や方針に賛同した人のための学校です。最初からここに入学して、この学校を卒業するというのが基本です。
もちろん、入学(転入)のきっかけが、公立や他の学校に合わなかったことや、不登校になったことだったという場合もあります。
ただ、「不登校」だった子ども専用の特別なケアは基本的には行っていませんので、注意が必要です。(不登校の子どもための施設は「フリースクール」「フリースペース」と呼ばれています)
おわりに
トットちゃんが通ったトモエ学園とはどんな学校なのか、また、今の日本にある「オルタナティブ教育」と呼ばれる教育や学校についてご紹介しました。
一般的な公立・私立学校と比べると非常に数は少ないですが、トモエ学園に負けず劣らず、個性的で熱意のある学校が今の日本にもたくさんあります。
色々な教育を知って、子どもに合った学校を選べたら理想ですね。
参考:日本シュタイナー学校協会
参考:多様な学びのカタログサイト マナカタ