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高齢者の健康管理のポイントは? 体温の基準や変化を正しく把握しよう

年齢を重ねると、体の機能がだんだんと低下していくことはよく知られていますが、体温や体温調節機能も変化していくことはご存じでしょうか? 早稲田大学人間科学学術院で体温・体液の研究をされている永島計教授に、体温や体温調節機能の重要性や、高齢のご家族の健康管理のためにも覚えておきたいポイントについて、教えていただきました。

最終更新日:2023.10.10

目 次

「体温」はなぜ重要?

体温計

PIXTA

加齢による体の機能の低下とともに変化していく、体温や体温調節機能。高齢のご家族がいる場合、どんなことに注意しておくとよいのでしょうか。早稲田大学人間科学学術院で体温・体液の研究をされている永島計教授に、体温や体温調節機能の重要性、健康に過ごすためのポイントを教えていただきました。

そもそも、体温ってどんなもの?

体温とは、皆さんもご存じの通り、人間の体の温度を指します。調子が悪いな、という時に熱を測る方も多いと思いますが、体の調整を知る一つの指標として活用されています。

一言に体温と言っても、人間には大きく2つの体温があるのだそう。

永島教授「深部体温といわれる体の内部の温度と、体の外側に近い部分の温度は大きく異なります。深部体温は、脳や肝臓などの大事な臓器の温度であり、常に一定に保とうと働いています。一方、外側の温度は、体の表面に近くなればなるほど、外界の環境に大きく左右されます」

体温を測る時は、脇の下に体温計を挟んで測定しますよね。その理由は、脇は体の表面にあたりますが、脇に挟んで測ることで、比較的深部体温に近い値が得られることが経験的に知られているからだそうです。

体温の基準とは? 高齢者の体温は低くなる?

一般的に、赤ちゃんは体温が高く、基礎代謝が高い傾向にありますが、高齢になると体温が若干低下し、基礎代謝も落ちていくといわれています。

実際に測定した研究データによると、生まれた時は体温がやや高く、10歳くらいで一定の体温に落ち着き、高齢になると体温が低くなる傾向にあります。50歳以下の方と65歳以上の方の腋窩(脇の下)の温度を測った研究では、50歳以下の方の平均が36.89℃程度だったのに対し、65歳以上の方の平均が36.66℃程度と、平均0.2℃低かったのだそう。

参考:東京都老人総合研究所生理学部 老人腋窩温の統計値

永島教授「高齢になると、筋量が落ち、基礎代謝が落ちるため、深部体温は少し下がる傾向にありますが、1℃~2℃も下がることはありません。実はこのこと自体は健康に大きな影響を及ぼすものではなく、それよりも、加齢により体温調節機能が低下することが問題です」

体温調節機能とは? なぜ低下することが問題?

体温が低くなることではなく、体温調節機能が低下することが問題とは、どういったことなのでしょうか?

永島教授「人間にとって快適な外気温は28℃~31℃ですが、それに比べて人間の体温は36℃~37℃と高い温度、かつ1℃~2℃の非常に狭い幅になっています。この高い温度を維持するための仕組みを体温調節機能といいます。人間にとって重要なエネルギーを得るための物質分解や、体を作る物質合成には酵素の働きが欠かせませんが、この酵素の多くは、体温付近で最もよく働きます。体温調節機能がしっかり働くことで、この酵素の活動が正常に行える体温に保つことができるのです」

人間にとって必要な酵素の活動を正常に保つことが、体温調節機能の役割なのですね。

巷では、体温が1℃上がると健康になる、といった話を耳にすることもありますが、実際にそういったことはあるのでしょうか?

永島教授「体温が上がることで、働きが良くなる体の機能は存在します。しかし、体温調節が1℃高いことでその働きが維持されるようなことはなく、ホルモンなどの特別な疾患がある場合を除いて気にすることはないと思います」

体温調節機能が低下すると何が起こる?

ご高齢の女性

PIXTA

体温調節機能が低下すると、さまざまな面で体調に悪影響が出てくるといいます。どのような症状が出るのか、永島教授に詳しく教えていただきました。

発汗しにくくなる

運動をする女性

PIXTA

永島教授「暑いところにいて体温が上昇したりすると、皮膚の血管が拡張し、温かい血液が体の表面に分布して熱を逃がします。さらに、汗をかき、蒸発することで効率的に熱を逃がします。しかし、高齢になってくると、このどちらの機能も下がってしまうのです」

年齢とともに自律神経が衰えると、脳からの汗をかくという指令を出す機能や、汗腺自体の汗をかく能力が低下してしまうのだそう。それにより、汗をかくべきタイミングが遅れてしまい、汗をかけないということが生じるといいます。

適度な運動を日常的に行うことで、汗をかく能力はある程度上がるそうですが、どうしても年齢的な弊害は生じてしまうそうです。

熱中症のリスクが高まる

汗をかく男性

PIXTA

発汗しにくくなることとつながりますが、体温調節機能が低下することによって熱中症や低体温症のリスクが高まるのだそうです。

永島教授「水を飲んでも、汗をかくタイミングのコントロールがしにくくなります。体が高温でも汗をかくことができず、熱中症につながる可能性が高まります」

睡眠が浅くなる

寝つきの悪い女性

PIXTA

体温のリズムが優れないことで、睡眠にも悪影響が出てくるといいます。

永島教授「睡眠時間が短いことよりも、睡眠の質が悪くなってしまうことが問題です。人間は日中の体温よりも、夜寝ている時の体温が低いのですが、体温調節機能が衰え体温のリズムが乱れると、睡眠のリズムも乱れ、浅い眠りになってしまいます」

他にも、「免疫力が下がる」などと言われることもあるそうですが、永島教授曰く、まだ十分な検証がされていない領域であり、体温調節機能が低下することによって免疫力が下がるとは言いきれないそうです。

健康を保つ体温リズムを作るために心掛けたい行動とは?

散歩する夫婦

PIXTA

永島教授「人間には、24時間単位の体温リズムがあります。体温リズムとは、一般的に起床3時間前程度に最低となり、夕方5~6時頃に最高になるリズムで、その振れ幅は0.6℃~1.0℃程度です。体温リズムは生活リズムに影響されるため、昼間に代謝を上げて、夜には代謝を上げない、といった生活を過ごすことが効果的です」

年齢を重ねるとともに体温調節機能は衰えていきますが、その中でも体温リズムを整えることで、健康に過ごすことができると永島教授は言います。

ここからは、日々の生活でできる体温リズムを整えるための取り組みをご紹介します。

【体温リズムの整え方1】体温を毎日計測しよう

体温を測る女性

PIXTA

平熱を計ることは、体調管理の基本の一つです。

永島教授「平熱は、環境・自身の深部体温・体つき(筋肉や脂肪の量)によって変化するため、かなり個人差はあるものの、毎日一定の時間に測定することで把握することができます。普段の自分の状態を知る方法の一つですね」

体温を測定する時間に決まりはありませんが、おすすめは、朝起きてすぐのタイミングなのだとか。朝起きてすぐであれば、安静時の体温を把握することができますし、習慣付けもしやすいですね。
逆に、運動をした後など、体温が変化しやすいタイミングは平熱を知るには適していません。毎日同じような状態で測定することが、平熱を把握するために重要なのだそうです。

身近な方法ですが、自分の体調を管理する上で重要なポイントです。ぜひ実践していきたいですね。

【体温リズムの整え方2】朝食を食べよう

朝食

PIXTA

体温のリズムと体のリズムは比較的連動しているので、朝食を取って体のリズムをつくることが重要なのだそう。

永島教授「体のリズムをつくり体内時計をリセットしてくれる因子を、同調因子といいます。この同調因子の働きは、朝食を取ることや、朝日を浴びる活動などが当てはまります。朝食を取ると、血糖値の濃度が上昇したり、消化管ホルモンの分泌や咀嚼によって体の熱の生産が短時間かつ強力に促されます。それにより、体内時計がリセットされるのです」

逆に、夜食などはリズムが乱れてしまうため、控えたほうがいいそうです。

【体温リズムの整え方3】入浴は就寝の2~3時間前までにしよう

浴室

PIXTA

「お風呂はぜひ毎日入ったほうがいい」と永島教授は言います。

永島教授「寝る2~3時間前にお風呂に入ることで、一時的に体温を上げて、就寝時には睡眠に適した温度まで下げることができます。これにより、より良い眠りにつくことができます。体温のリズムを整えるために睡眠のリズムを整えることは欠かせませんし、逆もまた同じです。2つの要素は相互作用しています」

入浴方法を見直すことが、良質な睡眠を取ること、さらには、体温リズムを整えることにもつながります。ぜひ、普段の入浴方法から変えていきたいですね。

入浴と睡眠の関係については、こちらの記事も参考にしてみてください。

【体温リズムの整え方4】就寝直前の食事、コーヒーは禁物

夜にコーヒーを飲むイメージ

PIXTA

永島教授「就寝直前の食事は、代謝が上がって体温が上昇してしまうのでNGです。カフェインが含まれたコーヒーも控えるようにしましょう」

また、体だけではなく、脳のリズムも大切です。寝る直前の勉強や仕事も頭が活性化してしまうので、控えた方がよいのだそう。

健康に過ごすためには、生活のリズムを整えることが重要なのですね。

高齢のご家族がいる場合、気に掛けるべきポイントとは?

家族

PIXTA

永島教授「高齢になると体温調節機能が低下するとともに、筋肉量の減少や血管が硬くなることなど、体全体の機能も低下するため、若い時には平気だった温度の変化が大きなストレスになることがあります」

本人はこのくらい大丈夫、と思っていても、体が深刻なストレスを受けると、命の危機につながることもあります。特に、外界気温が大きく変化する夏や冬は、周りにいる方が気に掛けてあげる必要があります。

夏であれば、気を付けたいのは熱中症です。最近では室内での熱中症も発生しており、こまめな水分補給や室内の温度管理に注意が必要です。
体温調整機能が低下していることを、本人だけではなく周りの方も正しく認識し、体に必要以上の無理をさせないようにエアコンなどを有効活用しましょう。

一方、冬であれば、ヒートショックに要注意です。高齢の方は血圧の調整能力も低下しているので、急に42℃ほどの温度の熱いお風呂につかるのではなく、38℃~40℃程度のぬるま湯に胸の高さくらいでつかるのがおすすめです。

永島教授「ヒートショックは急激な温度変化によって生じます。ヒートショックの防止には、低めの湯温のお風呂につかるだけではなく、お風呂に入る前に浴室を温めておく・お部屋は過ごしやすい温度にしておくなども重要です」

おわりに

人間は体温を調節することで健康を保っています。そしてこの体温の調節は、普段の生活と密接に結びついているということが、永島教授への取材で分かりました。年齢を重ねることによって引き起こる体の不調は避けては通れないものですが、より健康に毎日を過ごせるように、できることから取り組んでいけるとよいですね。

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※エアコンのメーカーや機種によっては対応できない場合があります。

  • この記事取材先プロフィール

    永島計

    早稲田大学人間科学学術院 人間健康福祉科学科 体温・体液研究室

    永島計

    1960年兵庫県宝塚市生まれ。85年京都府立医科大学医学部医学科卒、95年京都府立医科大学大学院医学研究科(生理系)修了。京都府立医科大学附属病院研修医、イエール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員、王立ノースショア病院オーバーシーフェローなどを経て、現在、早稲田大学人間科学学術院教授。博士(医学)。専門は生理学、とくに体温・体液の調節機構の解明。

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公開日:2022.7.28

最終更新日:2023.10.10

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