【出汁の使い分け】水出し:クリアでスッキリ。吸い物や薄味の料理に
――水出しと煮出しでは、味や適した料理に違いはあるのでしょうか?
荻野目:水出しは、削り節や昆布、乾椎茸などをお水と一緒に容器に入れ、冷蔵庫内に一晩低温で抽出する方法です。水出しで取った出汁は、クセがなくすっきりとした味わいが特徴。お吸い物やさっぱり系の煮物など、薄味で上品な料理に適しています。この方法は、加熱しないことで素材の持つ繊細な香りを楽しむことができるほか、“濁りが出にくい”というメリットもあります。
【出汁の使い分け】煮出し:香りや風味が強い。出汁そのものを味わいたいときに
荻野目:煮出しは、鍋で沸かしたお湯に、削り節や昆布を入れて取る方法。こちらは、煮出す時間や使う素材により異なりますが、水出しと比べて香りや風味が強く、コク味も出てきます。うどんやそばなど、出汁をしっかり味わいたい場合や、濃い味の調味料を使う場合に適していると思います。たとえば味噌汁は、水出しの出汁だと味噌風味に負けてしまうので、煮出しの方がおすすめです。
また、削り節を使う際、かつお節特有の生臭さが気になる方もいらっしゃるかもしれません。煮出すとその生臭さが揮発することで、低減します。
水出しは、“素材らしさ”が出にくい面も
――水出しは、素材によって適さないものもあるのでしょうか?
荻野目:かつお節、昆布、煮干し、乾椎茸、どれも問題ありません。かつお節や煮干しのうま味成分として知られるイノシン酸や、昆布のグルタミン酸、干し椎茸のグアニル酸はいずれも水溶性なので、煮出しでも水出しでも抽出されます。ただし、これはどの素材にも共通しますが、水出しは、煮出しに比べてクセが出にくい分“素材らしさ”が弱くなってしまう面があります。
例えば昆布特有の“磯臭さ”は、水出しでは強く出てきません。一方で、この“磯臭さ”こそ昆布らしさとも言えますので、「昆布感を強く出したい」という場合は、煮出す方が適しているでしょう。
ドアポケットはNG!?水出しの保存で注意するべき点
――水出しは、どのくらい保存できるのでしょうか。
荻野目:取り扱いによっては、衛生面に問題がある場合があります。水出しでまず気を付けたいのは、抽出する際に容器を冷蔵庫内のどこに置いておくか。ドアポケットを利用している方も多いと思いますが、頻繁に開閉しますと、庫内温度が上昇します。
冷気は下に溜まりやすい性質がありますので、温度が安定しやすい冷蔵室の下段に置くことをお勧めします。
また、冷蔵庫の能力や食品の入っている状態で庫内の温度は不安定になります。より安心してご使用していただくため、だし素材をとりだした後に、微沸騰位までひと煮立ちされてから当日中に早めにご使用してください。
出汁の正しい冷凍方法
荻野目:よく冷やした出汁を、製氷皿に注ぎ、表面が空気に触れないよう上からラップをだしの上面に密着させて凍らせます。なぜラップを使うかと言いますと、出汁を凍らせると、うま味のエキス成分が表面を膜状に覆います。この膜を酸化させないために、ラップをすることが必要になります。
それが面倒な場合は、フリーザーバッグに冷やした出汁を入れ、空気を抜きながらチャックを締め、冷凍しましょう。フリーザーバッグに使われているポリエチレンは出汁の香りを吸着する性質がありますので、香りを極力損なわないよう、必ず冷ましたものを入れ、1回で使い切ってください。
【美味しい出汁を取るためのコツ】1.水道水は極力避ける
――美味しい出汁を取るための、コツはありますか?
荻野目:使うお水によって、出汁の味は変わります。日本の水は、地域によっても異なりますが、おおよそミネラル分が少ない「軟水」で、和風の出汁を取るのに適しています。しかし水道水には、衛生上微量の塩素が含まれており、出汁の香りや風味が塩素臭によって幾分消されてしまいます。そのため、水道水をそのまま使うよりも、脱塩素機能のある浄水器の水や軟水のミネラルウォーターをお使いになるのが良いと思います。ミネラル分の多い硬水は、エキスぽく雑味も出てきてしまいますのでお勧めできません。
【美味しい出汁を取るためのコツ】2.出汁素材の特徴を知る
荻野目:「かつお節」「昆布」とひと口にいっても種類があり、それぞれ風味が全く違います。特徴を知っておくと、合わせ出汁を取る際も、素材同士が喧嘩せず、風味のバランスも良好で相乗効果が出やすくなります。
かつお節の種類
荒節・・・煮たカツオを燃やしたまきの熱と煙で乾燥させたもの。「花かつお」「かつお削りぶし」として売られている。燻した力強い香りが特徴
本枯鰹節・・・荒節の表面を削りでカビ付けと日干を4回以上繰り返した、かつお節の最上級品。「かつおかれぶし削り」として売られている。透明感と上品なうま味・穏やかな香りが特徴。
だし昆布は、主に利尻昆布・真昆布・三石(日高)昆布・羅臼昆布といった種類があります。利尻昆布はクセが無く上品で澄んだ出汁。京料理などで使われます。真昆布の出汁は上品な味わいとうま味が特徴で、やや青臭さと濁りがあります。反対に羅臼昆布は特有の青臭さがありますが、うま味とコクが濃厚です。
したがって、かつお節と昆布の合わせ出汁を取る場合も、上品な「本枯鰹節」の削り節に「利尻昆布」や「真昆布」を組み合わせるなど、特徴の似たものを使うと良いと思います。美味しい出汁に必要な素材の量は、水に対し、2%~3%。合わせ出汁の場合、水1リットルに、だし昆布10g、削り節20gが目安です。
最近は、温かい出汁をそのまま飲む方も多くなりました。1杯のかつお出汁を飲むと副交感神経活動が高まり、リラックスできることが最近の研究で分かっています。美味しい出汁で“ホッとする”ひと時を過ごしてもらいたいですね。
おわりに
水出しと煮出し、それぞれの良さがわかりました。使う素材の特徴も知っておけば、自分好みの美味しい出汁が取れ、料理の幅もさらに広がりそうです。水出しの場合、夏場は特に保管に注意してくださいね。
出汁の旨味を活かしたレシピはいかが?
かつお節のプロから出汁の取り方をマスターしたら、料理に活かしてみませんか? 出汁さえ上手く取れれば、味が決まりにくいと言われる和食もグンとレベルアップしますよ。